黒毛和種肥育牛におけるSCD遺伝子多型と胸最長筋内脂肪酸組成


[要約]
飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に変換する脂肪酸不飽和化酵素 Stearoyl-CoA Desaturase(SCD)遺伝子の多型は、黒毛和種肥育牛の胸最長筋内の脂肪酸組成に影響を与えている。SCD遺伝子型AA型はVV型に比べ、不飽和脂肪酸割合を3.2%上昇させる効果を持つ。

[キーワード]黒毛和種、SCD遺伝子、胸最長筋、脂肪酸組成、オレイン酸

[担当]岐阜畜研・飛騨牛研究部
[代表連絡先]電話:0577-68-2226
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  牛肉の食味性を科学的に評価しようとする研究が取り組まれてきており、食味がよい牛肉は不飽和脂肪酸割合(特にオレイン酸)が高く、脂肪の融点が低いという報告がある。不飽和脂肪酸は脂肪融点を下げ、牛肉を食べた時の食感や風味に影響を与えるとされており、牛肉の美味しさに深く関与していると考えられている。SCD遺伝子は飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に変換する酵素をコードする遺伝子で2種類の多型が報告されており、遺伝子型間で飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に変換する能力に差があることが示唆されている。
  そこで、黒毛和種肥育牛におけるSCD遺伝子多型と胸最長筋内脂肪酸割合との関連を解析して、SCD遺伝子が脂肪酸組成に与える影響を明らかにし、美味しい牛肉を生産するための種畜選抜指標としての有効性を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. SCD遺伝子型の判定はPCR-RFLP法により行い、AA、VA、VV型の3タイプに分類された。
2. 黒毛和種肥育牛(259頭)のSCD遺伝子型頻度は、AA型46.7%(121頭)、VA型45.2%(117頭)、VV型8.1%(21頭)、対立遺伝子頻度はA型0.693、V型0.307であった。
3. 黒毛和種去勢肥育牛(189頭)の不飽和脂肪酸割合は、SCD遺伝子型AA型で58.1%(92頭)、VA型56.7%(79頭)、VV型54.9%(18頭)となり、各遺伝子型間には有意差が認められた。不飽和脂肪酸割合に対する遺伝子型の効果はAA型>VA型>VV型であった(表1図1)。
4. 不飽和脂肪酸割合に対する各種要因との相関は遺伝子型間、ロース芯面積、BMSNo.、枝肉単価に高い値であった(表2)。
5. SCD遺伝子型は枝肉成績に対して明確な影響は認められなかった(表3)。すなわち、枝肉成績に変化を及ぼすことなく不飽和脂肪酸割合を増加させることが可能である。
6. SCD遺伝子情報により、不飽和脂肪酸割合の高い牛肉を生産する種畜の選抜が可能である。

[成果の活用面・留意点]
1. 胸最長筋内の不飽和脂肪酸割合はSCD遺伝子型だけでなく、種雄牛間:最大58.7%、最小54.3%(p<0.01)、農家間:最大58.7%、最小52.4%(p<0.01)、性別:去勢56.3%、メス57.4%(有意差なし)、の違いにより変化がみられる。
2. 胸最長筋内の不飽和脂肪酸割合に影響を与える生体内因子はSCDだけでなく、脂肪酸合成酵素、転写因子SREBP-1、成長ホルモン等が報告されており、SCD以外の遺伝子の効果や遺伝子間相互作用についても留意する必要がある。


[具体的データ]

図1 SCD遺伝子型の不飽和脂肪酸割合への効果 表1 SCD遺伝子型の不飽和脂肪酸割合への効果
表2 不飽和脂肪酸割合と各種要因との単相関係数
表3 SCD遺伝子型の枝肉形質への影響

[その他]
研究課題名:育種情報の高度化によるおいしい牛肉の開発
予算区分:高度化事業
研究期間:2004〜2008年度
研究担当者:松橋  珠子、常石  英作(九州農研)、丸山  新、小林  直彦

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