ブタの親子判定のためのマイクロサテライトマーカーセットの作製


[要約]
本研究で選定およびPCRマルチプレックス化したマイクロサテライトマーカーを用いることで、デュロック種をとめ雄としたLWD三元交雑豚の親子判定を行うことができる。

[キーワード]ブタ、マイクロサテライトマーカー、親子判定、デュロック種

[担当]千葉畜総研・生産技術部・生物工学研究室
[代表連絡先]電話:043-445-4511
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(中小家畜)
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
  消費者の食品の安全性に対する関心の高まりから、農産物のトレーサビリティシステムが構築されつつある。家畜ではウシにおいてすでに個体識別や登録事業でDNAマーカーが利用されている。ブタでは個体識別や親子判定へのマイクロサテライト(MS)マーカーの利用についての可能性がいくつか報告されている。しかし、流通する肉豚の多くを占めるデュロック種を父としたLWD三元交雑豚の親子判定に有効なマーカーセットについては報告されていないので、そのMSマーカーセットを開発し、ブタのトレーサビリティシステムに貢献する。

[成果の内容・特徴]
1. 本研究のMSマーカーセットは、報告のある豚のMSマーカー約2000個の中から725個を調査し、最終的には10マーカーを選定しセット化したものである。これらのマーカーについてランダムサンプル(LW種等348頭、D種124頭)から計算された父子による総合父権否定確率は0.9977であり、父母子による総合父権否定確率は0.9999である(表1)。
2. マーカー選定の指標として使った父権否定確率は、真の父親ではない雄を否定できる確率を示すものであり、この数値が高いマーカーほど親子判定の効率は高くなり、また、マーカーを増やすことで判定の効率は高まっていく。各マーカーの父権否定確率については、Weir(1996, Genetic Data Analysis II, Chap.6)にあるように父母が同一の集団に属することを前提に計算されるが、本研究では父と母がそれぞれ種雄豚(D種)と母豚(LW種等)という別々の集団に属し、異なる遺伝子頻度を持つ場合を考慮して計算している。
3. 選定マーカーを使った実証試験において4戸の農家由来のサンプル(LWD交雑豚62頭、D種18頭)を使って父子判定をしたところ各マーカーの父権否定確率は0.555から0.420であり、10マーカーの総合父権否定確率は0.9986と計算される。実際には1116組のうち1113組で父子関係が否定(1113/1116=0.9973)されている(表2)。
4. 父子関係のある組合せ(D種18頭、LWD35頭)において父子判定を実施し、すべての組合せにおいて父が特定でき交配記録に間違いはないことを確認している(表3)。
5. 選定した10マーカーのうち5マーカーについてプライマーの再設計を行うことにより1反応でPCR増幅が可能であり、遺伝子型の解析が容易に行え、費用も10分の1に抑えることができる。

[成果の活用面・留意点]
1. 父親のみの情報だけで判定が可能であり、毛根1〜2本でより効率的に父子判定を行うことができる。
2. 父候補の中に血縁関係がある場合、父子関係を否定できる確率は下がると思われる。
3. LW種においても遺伝子型の数が多いマーカーを選定しているため、父母子での親子判定でより高い精度が期待できる。


[具体的データ]

表1.ランダムサンプルから計算される作製したMSマーカーセットによる父権否定確率
表2.血縁のないサンプルにおける作製したMSマーカーセットで得られる精度の実証試験
表3.作製したMSマーカーセットによる親子判定の一例

[その他]
研究課題名:トレーサビリティシステムを保証する親子判定法の開発
予算区分:県単
研究期間:2004〜2006年度
研究担当者:山口倫子、中根崇、神山佳三、美川智(生物研)、林武司(生物研)、粟田崇(生物研)

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