乳牛ふんの吸引通気式堆肥化とリン酸スクラバおよび地域未利用資源による簡易脱臭法


[要約]
乳牛ふんを吸引方式で通気すると順調に堆肥化が進行する。堆肥臭気成分のうちリン酸スクラバに流入したアンモニアはほとんど脱臭できる。残りの臭気をモミガラとバークで吸着脱臭すると、硫化水素の除去率は高いがメルカプタン類の除去率は低い場合がある。

[キーワード]牛ふん、吸引通気、堆肥化、スクラバ、モミガラ、バーク、脱臭

[担当]千葉畜総研・生産環境部・環境・資源研究室
[代表連絡先]電話:043-445-4511
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
  畜産経営の悪臭問題に対して有効な脱臭装置は設置費および維持管理費が高額なため農家段階で導入している例は少ない。そこで、吸引通気式堆肥化で堆肥臭気を捕集し、簡易スクラバ脱臭装置と地域未利用有機質資源を活用した簡易吸着脱臭槽で脱臭する組み合わせ脱臭により、中小農家でも導入可能な簡易で低コストな脱臭方式を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 本方式の特徴は、堆肥底部から吸引した臭気について、簡易スクラバ脱臭装置を通してリン酸水溶液によりアンモニアを回収した後、有機質資材を充填した簡易吸着脱臭槽で残臭を脱臭する組み合わせ脱臭方式であり、堆肥の臭気が効率よく脱臭できる。
2. 堆肥発酵槽(10m2)において、乾燥ハウスで予乾した乳牛ふん約8tを2.7kWリングブロアで堆肥底部から吸引通気して堆肥化を1ヶ月間(冬期及び夏期、7日ごとに切返し)行い、発生臭気のアンモニアをリン酸スクラバ脱臭装置(容量700L)で回収した後、アンモニア以外の臭気をモミガラ(水分10.2〜19.8%)・製材残材(バーク、水分21.3〜38.9%)を充填した簡易吸着脱臭槽(容量3.6m3×2槽)により脱臭する試験を実施した。
3. 堆肥底部からの吸引通気(堆肥1m3当たり毎分通気量冬期51L・夏期42L)方式による堆肥化で、水分72.8%のふんも4週間後に水分が60.6%、有機物分解率が25%以上となり、堆肥化が進行した(表1図2)。発酵温度は冬期・夏期とも70℃以上に上昇し、堆肥底部の吸引口付近が堆肥上部よりも高温で推移した(図1)。吸引口を2ヶ所のスポット方式としたところ目詰まりもなく通気できたが、堆肥底部から排出される部分に結露水とれき汁が混合したドレインが発生し、その量は初期堆肥重量の10%程度であった。堆肥中の窒素は、試験終了時26%減少し、ドレインに1.2〜2.6%とリン酸スクラバ溶液に8.2〜16.8%移行し、6.5〜16.7%の行方は不明であった。
4. アンモニア発生の多かった夏期で、堆肥表面アンモニア濃度は平均35ppm、吸引排気中は平均2530ppmで、最高では16000ppmに達した。リン酸23.5%水溶液250Lの循環によるスクラバ脱臭装置で平均1340ppmのアンモニアに対し97.6%以上除去でき、1ヶ月使用できた。後段の簡易吸着脱臭では、硫化水素についてはモミガラ・バークともに除去率が高かったが、メルカプタン類については両資材とも除去率が低い場合があった(表2)。
5. 試験規模での生ふん1t当たりのスクラバの処理費を試算したところ、薬液代833円、電気代冬期727円・夏期665円で、搾乳牛40頭規模経営では年間933千円程度となる。

[成果の活用面・留意点]
1. スポット式吸引口では発酵ムラが生じるので、適宜切り返しが必要である。
2. 発生したドレインや使用済リン酸水溶液は堆肥に掛け戻す等の工夫を要する。


[具体的データ]

表1: 堆肥化の推移
図1: 堆肥化発酵温度の推移(夏期試験)
図2: 堆肥化の物質収支 表2: 臭気発生・除去状況

[その他]
研究課題名:水田残渣等を活用した簡易脱臭法および再資源化技術の開発−乳牛ふん臭気への対応−
予算区分:委託プロ(バイオリサイクル)
研究期間:2005〜2006年度
研究担当者:杉本清美、山口岑雄、大泉長治

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