豚ふんの吸引通気式堆肥化における簡易スクラバと林地残材による脱臭技術


[要約]
豚ふんの吸引通気式堆肥化の初期に、堆積物表面から揮散するアンモニア濃度は平均30ppm程度と低く、堆肥底部から捕集した高濃度臭気はリン酸溶液の簡易スクラバでアンモニアを99%以上除去でき、続く林地残材脱臭槽で硫化水素を約90%除去できる。

[キーワード]豚ふん、吸引通気、堆肥化、スクラバ、林地残材、脱臭

[担当]富山畜試・飼料環境課
[代表連絡先]電話:076-469-5921
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
  中小規模の養豚農家では、豚ふんの堆肥化過程で発生する悪臭を低減するため、低コストで簡易な脱臭施設や、脱臭後の資材を再利用できる処理法が求められている。
  一方、近年、牛ふんにおいて堆肥化を促進するための通気を兼ねて発生する臭気を吸引する方式(吸引通気)や、吸引したアンモニアを薬液洗浄して回収する簡易なスクラバが開発されているが、豚ふんでの適用事例はない。
  そこで、豚ふんの堆積式堆肥舎において、高濃度臭気が発生する堆肥化初期に吸引通気を行い、簡易スクラバと、本県の未利用木質資源として堆肥化副資材への利用や脱臭効果が考えられる林地残材を活用した脱臭槽とを組み合わせた簡易脱臭技術を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 本方式では吸引通気と脱臭施設への臭気搬送はブロワ1台で行う。堆肥舎床面の吸気口から吸引した臭気は、ドレインタンクで除滴し、簡易スクラバで1次脱臭、林地残材脱臭槽で2次脱臭する(図1)。
2. オガクズで水分調整した豚ふん(水分63%程度)は、圧送通気と同量(堆肥1m3当たり通気量0.03〜0.1m3/分)の吸引通気で、堆肥中心部の温度が70℃以上に上昇し、夏季・冬季とも好気発酵が進む(図2)。
3. 堆積物表面から揮散するアンモニア濃度は平均30ppm程度と低く(表1)、同程度の規模で圧送通気を行った場合(約540ppm)に比べ10%以下である。
4. 簡易スクラバでは、リン酸溶液(濃度約22%)を循環、噴霧して、平均5,000ppmの高濃度のアンモニアを99%以上除去できる(表1)。また、堆肥中の減少した窒素のうち、簡易スクラバで約66%、ドレイン等で約7%を回収できる(表2)。
5. 林地残材(スギ間伐材の枝葉等を粉砕したもの)を堆積した脱臭槽では、簡易スクラバで除去できない硫化水素を約90%、メルカプタン類を約80%除去できる。(表1)。
6. 堆肥の水分は4週間で40%程度に減少するが、堆肥底部からのれき汁や高温・高湿度の吸引通気が結露したドレイン等が、生ふん1t当たり約7kg/日発生する(表2)。
7. 実証した簡易脱臭施設からランニングコストを試算すると、生ふん1t当たり薬液代約164円/日、電気代約60円/日で、肥育豚換算650頭の経営規模(生ふん2.1kg/日・頭×650頭×堆肥化初期2週間分=19t/日を脱臭)では年間1,500千円程度となる。

[成果の活用面・留意点]
1. 臭気の揮散低減と高濃度臭気の簡易脱臭技術として、冬季に積雪寒冷環境となる北陸地域において活用できる。
2. ドレイン(窒素含量約0.2%)や林地残材脱臭槽から発生する廃液は、発酵途中の堆肥への散布や、浄化槽での処理等が必要である。
3. 生ふん1tから発生するアンモニアを2週間回収するには、リン酸溶液が約42kg(85%リン酸原液で約11kg)必要である。また、脱臭後に発生するリン酸アンモニウム溶液(窒素含量約4%、リン酸含量約16%)の処理が必要で、飼料イネや飼料作物等への肥料としての利用が考えられる。


[具体的データ]

図1 簡易脱臭施設の概要
図2 堆肥中心部の温度変化と生ふん1t当たりドレイン等発生量 表2 豚ふんの吸引通気式堆肥化における物質収支および窒素収支
表1 アンモニア等の平均濃度と簡易スクラバおよび林地残材脱臭槽による平均除去率

[その他]
研究課題名:林地残材を活用した簡易脱臭法の開発−豚ふん臭気への対応−
課題ID:委託プロ(バイオリサイクル)
予算区分:2005〜2006年度
研究期間:開澤浩義、齋藤健朗、丸山富美子
研究担当者:開澤(2006)農業電化2006別冊特集号 28-33

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