牛ふん堆肥の塩類及び重金属(銅と亜鉛)集積の実態と対策


[要約]
戻し堆肥を行うとECや塩類濃度は上昇するが、繰り返しが多くなるにつれて徐々に上昇しにくくなる。固形塩の過剰投与や硫酸銅溶液の投棄などの飼養管理上の不注意が、堆肥中の塩類や重金属の過剰をまねく可能性がある。

[キーワード]塩類、重金属、戻し堆肥

[担当]栃木畜試・畜産技術部・畜産環境研究室
[代表連絡先]電話:028-677-0015
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術及び行政・参考

[背景・ねらい]
  堆肥化を十分に行うことで、作物への悪影響や取扱性などが改善される。しかし、堆肥に含まれる塩類及び重金属は、堆肥化によって分解されることはなく、むしろ分解が進むにつれて相対的に濃度が高くなると考えられる。
  そこで、堆肥化だけでは解決できない塩類及び重金属(銅と亜鉛)に焦点を当て、堆肥中への集積の実態とその対策について試験を行う。

[成果の内容・特徴]
1. 当場で飼養している肉牛(黒毛和種)ふんを、オガクズで調整し約4か月間堆肥化させて基になる堆肥とした。これを500Lのポリプロピレン製コンテナに入れ、新鮮な肉牛ふん尿(約5kg、表1)を月1回添加して切り返した結果、EC及び加里濃度は、ふん尿を添加するにつれて上昇したが、添加する回数が増えるに従い徐々に増加しにくくなっていった(図1)。これは、常にふん尿が堆肥に添加されることで全体量が増加するため、塩類などは相対的に濃度が上昇しにくくなると考えられる。また、戻し堆肥を想定しシミュレーションを行った。基になる堆肥の成分値はこの戻し堆肥の試験で使った堆肥の成分値、添加するふん尿の成分値は草地試験場(現在、(独)畜産草地研究所(那須))の結果、添加するふん尿の量は実際の試験と同じ5kg/月、乾物分解発熱量は4500kcal/kg、水1kgに対する水分蒸発必要熱量を900kcal/kg、堆肥化に伴う有機物分解率の割合はHarada et alの式(y=34.41exp(-0.1472x)+65.7)、灰分の乾物%は30%と設定、これらの数値を用いた。その結果、実際の試験結果と同様の傾向が見られた(図2)。
2. 本県の調査において塩類濃度が高かった肉牛農家3戸・酪農家4戸の合計7戸と重金属濃度が高かった酪農家4戸について、それぞれ家畜飼養調査、堆肥、生ふん、副資材、地下水の分析を行った結果、前者では敷料として戻し堆肥を利用している他に、舐めて小さくなった固形塩のふんやエサの中へ廃棄、養分要求量以上に固形塩を給与など飼養管理上の不注意が見られた。後者では、亜鉛多給与農家では、堆肥中の亜鉛濃度に高い傾向がみられた。また、蹄病予防用の硫酸銅溶液を堆肥中へ廃棄する農家で、堆肥中の銅濃度が高かったが、指導の結果低下した(表2)。両方の調査とも、敷料や地下水は問題となるような濃度は検出されなかった。

[成果の活用面・留意点]
1. 戻し堆肥を繰り返しても、直線的に濃度上昇するわけではないが成分量は蓄積されているため、施用の際は十分に注意する必要がある。
2. 固形塩を多給するとふん尿中への排せつ量が増加し、堆肥中の濃度も高くなるので注意が必要である。
3. 亜鉛多給は生産上有効かもしれないが、亜鉛の排せつ量も多くなり堆肥中の濃度も高くなるので、今後は何らかの対応が必要である。
4. 得られた結果をまとめて冊子を作成し、農家や関係機関に配布する。


[具体的データ]

表1 基になる堆肥と添加したふん尿の成分 図1 戻し堆肥を繰り返した際のECと加里の変化
図2 塩類上昇のシミュレーション
表2 堆肥中の塩類又は重金属濃度が高かった農家の飼養状況と固形塩の処理方法

[その他]
研究課題名:作物・土壌に配慮した家畜ふん堆肥生産技術の確立
予算区分:県単
研究期間:2003〜2005年度
研究担当者:s正人、脇阪浩、神辺佳弘

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