リンゴ組織からのPCR法による根頭がんしゅ病菌の直接検出法


[要約]
リンゴ樹の根部からDNAを抽出し、これを用いてPCRを行うことで樹内に存在する根頭がんしゅ病菌を検出することができる。本法では組織分離を行わずに菌の存在を確認でき、迅速かつ簡便な診断が可能である。

[キーワード]リンゴ、根頭がんしゅ病、根部、PCR、直接検出法

[担当]長野果樹試・病害虫土壌肥料部
[代表連絡先]電話:026-246-2411
[区分]関東東海北陸農業・果樹
[分類]研究・普及

[背景・ねらい]
  根頭がんしゅ病菌は発病部位だけでなく、導管を通じ樹内に広く分布することが知られており、感染樹から採取した穂木や取り木による伝染が問題となっている。健全種苗を育成するためには、母樹での病原菌の有無を的確かつ迅速に検定することが必要となる。病徴診断はがんしゅがカルス等と類似することが多いため、確実な診断には、通常、病原菌を組織分離するか、得られた菌株についてPCR検定する方法がとられる。しかし、組織分離には時間がかかり、試料の状態によっては分離が困難な場合がある。そこで、組織分離を行わずに、樹内に存在する病原菌を迅速かつ簡便に直接検出する方法を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 本法は、リンゴ樹組織から市販のキットによりDNAを抽出し、病原性Agrobacterium属菌(以下、病原菌)に特異的なプライマーを用いてPCRを行うことで、組織に存在する病原菌を直接検出する手法である。本法に供試する部位としては根部が適する(表1)。
  
2. 検出の手順、PCRの反応条件等は以下の通りである。
  
○DNA抽出: 流水で水洗した径1cm程度の数本の根から、皮部組織0.1g程度を切り出し、液体窒素で磨砕後、DNeasy Plant Mini Kitのプロトコルに準じて実施する(改良点は抽出時の2-Mercaptoethanol加用と、分解Buffer中での10分間の振とう処理)。
○PCR反応条件: 抽出したDNA溶液を100〜1000倍希釈し、HotStarTaq DNA Polymeraseを用い、PrimerはVCF-3、VCR-3(澤田、2005)を用いた。ただし、反応液の組成はMQを2.95μl、10×PCR Bufferおよび2mM dNTPsを各1μl、5×Q-solutionを2μl、VCF-3およびVCR-3(0.5μM)を各0.5μl、Polymeraseを0.05μl、DNA試料を2μlとし、反応条件は95℃15分のインキュベーション後、95℃15秒、52℃30秒、72℃45秒を45サイクル実施後に72℃7分間とした。
  
3. 本法の検出感度は、組織分離によって得た菌体からDNAを抽出してPCRを行う方法と同等である。検出に要する期間は、分離をともなう方法は1週間程度であるが、本法では2日程度である。
4. 以下の諸点から本法の検出精度は高いと考えられる。
(1) 発病樹20樹の検定結果は全樹から病原菌が検出され、検出漏れはない(表1)。
(2) 本法で検定した外観上健全な200樹のうち、病原菌が検出された5樹は新たに無菌土壌に植え付けて行った5ヶ月後の発病調査で、根部にがんしゅを形成して発病が認められる。病原菌が検出されなかった195樹は、他の原因で枯死した樹を除き、全て発病は認められない(表2)。
(3) 本法により病原菌が検出されなかったマルバカイドウから穂木を採取し、挿し木による生物検定を4年間継続したが、発病する個体はない(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 本成果ではDNA抽出キット、DNA PolymeraseはいずれもQIAGEN社製を用いた。使用するキットや試薬が異なると条件等も変わることが予想されるので、予めキットや試薬等の最適条件を検討しておく必要がある。
2. 腐敗した根などからは検出できないことがあるので、できるだけ新鮮な根を使って検定する。
3. 供試量が少ないため、根系の大きな樹では検定数を増やすなど検出漏れに注意する。
4. 本法により、発病したブドウ、オウトウでも同様に根部から病原菌の検出が可能である。ただし、外観上健全な樹への適用性については未検討である。


[具体的データ]

表1 直接検出法による部位別の検出樹数
表2 外観上健全な樹に対する直接検出法の適合性
表3 直接検出法において病原菌が検出されなかったマルバカイドウの挿し木による生物検定

[その他]
研究課題名:リンゴ根頭がんしゅ病菌フリー台木母樹の育成
予算区分:県単
研究期間:2002〜2006年度
研究担当者:近藤賢一

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