近赤外分光法によるウンシュウミカン根中デンプン含有率の測定


[要約]
ウンシュウミカン樹の栄養診断を迅速に行うため、近赤外分光法による根中デンプン含有率の測定法を検討した。根の乾燥粉末を用い、1300〜2400nmの近赤外吸収スペクトルをPLS回帰分析して得られた検量線は、診断する上で十分な精度で測定できる。

[キーワード]ウンシュウミカン、近赤外分光法、根乾燥粉末、デンプン含有率

[担当]静岡柑試・栄養研究室
[代表連絡先]電話:0543-34-4852
[区分]関東東海北陸農業・果樹
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  高品質果実を連年安定生産するには、樹体の状態に応じた肥培管理を行うことが重要である。11〜12月の小根(直径約5mm)中のデンプン含有率から翌年の着花量を予測する樹体栄養診断が行われているが、現在の分析法では各種の分析機器が必要なだけでなく、分析に時間がかかる。より迅速かつ簡易に診断できる技術とするため、近赤外分光法によるデンプン含有率の測定法を確立する。

[成果の内容・特徴]
1. 本研究で利用した装置は、専用の粉末試料用セルに試料を充填して測定する可搬型近赤外分光器である。試料の充填から測定にかかる時間は一点あたり約1分で、現在の方法での所要時間の1/5に短縮できる(図1)。
2. 近赤外スペクトルの測定は、波長域1300〜2400nmを4nm間隔で1試料あたり8回測定し、平均して原スペクトルとする。検量線は原スペクトルを両側32nmで平滑化したスペクトルを用いて、PLS回帰分析により作成する。
3. デンプン含有率の実測値は、ヨウ素比色法により測定する。
4. 作成した検量線の精度は、異なる年度に採取した未知試料に対して予測標準誤差(SEP)が±1.96%、バイアスが-0.34%である(図3)。
5. 図3において、根中デンプン含有率1%未満を「少」、1%以上4%未満を「適正」、4%以上を「過剰」として階級分けして精度評価した場合、正答率は「少」が86%、「過剰」が87%と高い。(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 用いる試料は直径約5mmの小根で、収穫直前の11〜12月に採取する。
2. 根は乾燥させた後、ミル等の装置で可能な限り均質な粒度となるように微粉砕する。また、粉末試料用セルへの試料の充填が、均質になるように留意する。
3. 検量線は分光装置の特性や能力、試料の粒度等により変わるので、これらの条件が変わる場合は、検量線を作成し直す必要がある。
4. 「青島温州」では、根中デンプン含有率1〜4%を適正域とし、1%以下の樹は着花量が少なく、4%以上の樹は着花量が過多とする着花予測を行い、栄養状態にあわせた冬〜春期のせん定と施肥方法を指導している。なお、この基準は品種や栽培地により異なる場合がある。
5. 着花量が過多になると予測される「過剰」の場合は、2月に切り返しなど強めのせん定をし、春肥を早めの3月上旬に施用するなど、早春期からの適切な樹体管理が重要である。このため「過剰」の正答率が高いこの検量線は、栄養診断する上で十分な精度であると考えられる。


[具体的データ]

図1 可搬型近赤外分光装置(上)と粉末試料用セル(下) 図2 分析試料の調製と可搬型近赤外分光装置およびヨウ素比色法による測定手順の比較
図3 未知試料に対するデンプン含有率の予測精度 表1 未知試料に対する予測結果の正答率

[その他]
研究課題名:連年結果樹の樹体生産力の解析
予算区分:交付金プロジェクト(カンキツ連年生産)
研究期間:2003〜2007年度
研究担当者:中村明弘、竹川幸子、吉川公規

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