ウメ「紅サシ」の完熟落果の態様とネット収穫が樹体へ及ぼす影響


[要約]
ウメ「紅サシ」の完熟落果は胚固化完了期の果実が大きいほど早まる。ネットによる完熟落果収穫は、青ウメ収穫より果実肥大が進み、収量が増加する。青ウメ、完熟落果にかかわらず収量が多いと樹体への影響として花芽の着生が悪くなる。

[キーワード]ウメ、完熟落果、胚固化完了期、果重、花芽

[担当]福井園試・ウメ研究グループ
[代表連絡先]電話:0770-32-0009
[区分]関東東海北陸農業・果樹
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  ウメの出荷形態は、家庭での漬け込み消費の減少により、青ウメから一次加工(塩漬け)へと変化している。これに伴い加工原料として品質的に優れる完熟落果ウメを省力的に収集するネット収穫が普及している。ネット収穫は着果期間が長くなり、収量が増加することから、樹体への負荷の増加が懸念される。そこで、ウメの完熟落果の態様とネット収穫が樹体に及ぼす影響について検討する。

[成果の内容・特徴]
1. ウメ「紅サシ」の完熟落果の累積果重は単一S字型曲線を示す(図1)。落果果実は落果時期が遅いほど大きい。ただし、落果終期は発育が遅く、生長が劣る樹冠内部の果実が落果の中心となるために小玉になる(図1)。一樹内では大玉果ほど早く落果する傾向がある(データ省略)。
2. 胚固化完了期の果重と胚固化完了から落果盛期(落果率50%)までの積算温度には相関が認められ(Y=-17.5X+875.4 X:胚固化完了期の果重 Y:固化完了期から落果盛期までの日平均気温の積算値)、胚固化完了期の果重が大きいほど落果期は早まる。ただし、低温年は予測値より遅れることがあり、強風は落果を早める(図2)。
3. 胚固化完了期の果重と落果盛期の果重には相関が認められ(Y=1.21X+16.51 X:胚固化完了期の果重 Y:落果盛期の果重 r=0.85***)、胚固化完了期の果重が大きいほど落果盛期の果重も大きくなる。しかし、肥大率(落果盛期果重/胚固化完了期果重)は小さいほど高い。
4. ネット収穫は手もぎ(青ウメ)より果重が増加するために収量(加工利用向け果実)、総収量(収穫されない果実を含む)ともに増加する。平均的な青ウメ収穫(胚固化完了21日後手もぎ 100kg/樹)と比較すると、ネット収穫の総収量は新鮮重では21%程度の増加であり、完熟果実ほど果実の水分が増加するために乾物重では、やや少ない15%程度の負担増になる(表1)。
5. 収穫時期や収穫方法に関わらず収量が多いと、樹体への影響として花芽の着生が悪くなる(図3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 胚固化完了期の果重から予測される完熟落果時期を参考に、ネット敷設や漬け込み準備などの作業計画を立てるとよい。
2. 花芽分化期(8月下旬から9月上旬)に向け、収量によって礼肥の施用量を加減する。


[具体的データ]

図1 完熟落果の推移と果重の変化 図2 果重と落果期までの積算温度(福井園試植栽樹1987-2006)
図3 収穫時期、収量と花芽密度  
表1 収穫方法および時期別の落果率、平均果重と収量および総収量zのシミュレーションy

[その他]
研究課題名:ウメの簡易栄養診断に基づく着果負担軽減のための樹体管理技術の確立
予算区分:県単(特別試験事業)
研究期間:2002〜2006年度
研究担当者:上中昭博

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