水耕栽培トマトの吸水量を指標とした肥料成分の日施用法による草勢制御


[要約]
トマトの水耕栽培において、最大日吸水量を指標とする肥料成分の日施用法を用いることにより、従来の濃度管理法に比べて草勢の制御が容易な量的管理法を簡易に行うことができる。本法では、施肥量を削減できる上に濃度管理法と同程度の収量が得られる。

[キーワード]日施用、水耕栽培、吸水量、肥料成分施用量、トマト

[担当]野菜茶研・高収益施設野菜研究チーム
[代表連絡先]電話:0569-72-1493
[区分]野菜茶業・野菜栽培生理、関東東海北陸農業・野菜
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  養液栽培において一般的な培養液管理は、導電率(EC)を指標とする濃度管理法である。濃度管理法では肥料成分の組成を管理できない上に、成分濃度によって植物による吸収を制御することは困難である。そのため、濃度管理法ではトマトの収量安定に不可欠な草勢制御が上手くいかない場合がある。一方、作物に必要量の肥料成分を施用する日施用法では、より精密に施肥量を調節することが可能である。日施用法の実用化のためには自動化が不可欠であるが、各肥料成分のモニタリングセンサなどの問題から高度なシステム構築は難しい。そこで、トマトの水耕栽培において、吸水量を指標とした日施用法による簡易な草勢制御技術を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 肥料成分の日施用法は、既存の循環システムのタンクに定量ポンプとタイマを追加し、毎朝1回、トマトの吸水量に応じた量の肥料原液を添加して行う(図1)。トマトの吸水量は、フロートレススイッチと電磁弁を用いて計測した培養液の減少分を補う原水の水量とする。
2. 前3日間の吸水量の最大値を指標として3日ごとに設定を変更することにより、生育に応じた施肥量の調節が簡便に行える(表1)。吸水量が0.3L/株/日程度の初期の窒素施用量は3meN/株/日相当量で、吸水量の増加に応じて9meN/株/日まで増量する。養分必要量が減少する摘心時および栽培終了2週間前からは、摘心前の基準量よりもそれぞれ2、4meN/株/日ずつ減らす。
3. 培養液ECを一定に維持する濃度管理法では葉面積の変化が大きく、草勢制御が難しい(図2)。吸水量を指標とする日施用法は、トマトの茎径と葉幅を計測して施肥量を調整する方法と比べて計測が容易であり、葉面積の制御精度は同程度である。
4. 吸水量を指標とした日施用法を行うことによって、多量要素の総施用量を濃度管理法に比べて2〜3割削減できる上に、同程度の収量が得られる(表2)。

[成果の活用面・留意点]
1. ここで示した施用基準は品種「ルネッサンス」に対するものである。
2. 導入時には培養液分析を行い、肥料成分の組成および施用量の調整に備える。


[具体的データ]

図1 水耕栽培における日施用法のシステム構成 表1 吸水量を指標とした窒素施用量の基準(meN/株/日)
図2 日施用法における指標の違いによる葉位別の推定葉面積
表2 濃度管理法と日施用法における施肥量および総収量

[その他]
研究課題名:トマトを中心とした高収益施設生産のための多収、低コスト及び省力化技術の開発
課題ID:213-a
予算区分:基盤研究費
研究期間:2003〜2006年度
研究担当者:中野有加、渡辺慎一(九州沖縄農研)、川嶋浩樹、高市益行
発表論文等:中野ら(2006)園学雑75:421-429.

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