水稲「コシヒカリ」の中生同質遺伝子新品種候補系統「関東IL3号」


[要約]
水稲系統「関東IL3号」は、「コシヒカリ」の遺伝的背景にインド型品種「Kasalath」由来の出穂性QTL「qDTH8」(Hd5)を有する中生熟期の同質遺伝子系統である。出穂期は、育成地では「コシヒカリ」より10日遅く、「日本晴」と同じ“中生の晩”の熟期である。

[キーワード]イネ、コシヒカリ、同質遺伝子系統、出穂、晩生化、DNAマーカー

[担当]作物研・稲マーカー育種研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8950
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
  水稲品種「コシヒカリ」は市場評価が高く、作付面積比率は現在でも増加している。そのため、「コシヒカリ」の栽培適地拡大や大規模経営での適期収穫を可能とすることを目的とし、極早生〜中生の出穂性を示すコシヒカリ同質遺伝子系統群を育成している。本系統は、出穂性遺伝子Hd5を有し、育成地で早生の「コシヒカリ」より10日出穂の遅い中生熟期の系統である。

[成果の内容・特徴]
1. 「関東IL3号」は、インド型品種「Kasalath」を一回親とし「コシヒカリ」を反復親として4回戻し交配し、DNAマーカー選抜により育成された同質遺伝子系統である。
2. 「Kasalath」由来の出穂性QTLの一つqDTH8(Hd5)を含む約625kbpの導入染色体断片を有し、それ以外の染色体領域は「コシヒカリ」に置換されている(図1)。
3. 出穂期は、育成地の早植栽培では「日本晴」並で、「コシヒカリ」より10日遅い“中生の晩”である(表1)。
4. 育成地での稈長は「コシヒカリ」並で、「日本晴」より約15cm長い“長”である。穂長および穂数は「コシヒカリ」「日本晴」並で、草型は“中間型”である(表1)。
5. いもち病真性抵抗性遺伝子型は“+”、葉いもちおよび穂いもち圃場抵抗性はそれぞれ“弱”および“やや弱”、白葉枯病抵抗性は“中”である。耐倒伏性は“弱”、穂発芽性は“難”、障害型耐冷性は「コシヒカリ」並の“極強〜強”で、いずれも「コシヒカリ」と同等である(表1)。
6. 収量性は、育成地では「コシヒカリ」並で、「日本晴」より多収である(表1)。
7. 玄米の外観品質は、育成地では「コシヒカリ」よりもやや優れ“中上”であり、高温登熟性は「コシヒカリ」並の“やや強”である(表1)。
8. 玄米千粒重は、育成地では「コシヒカリ」並である(表1)。
9. 炊飯米の食味は、育成地では「コシヒカリ」並で、「日本晴」よりも優れる(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 適地は温暖地および暖地である。
2. 耐倒伏性が不十分なので、良食味米生産のためにも多肥にならないよう注意する。
3. いもち抵抗性が不十分なので、発生に注意し適期に防除する。


[具体的データ]

表1 「関東IL3号」の特性概要
図1  関東IL3号のグラフ遺伝子型

[その他]
研究課題名:DNAマーカーを用いたイネ出穂性同質遺伝子系統の作出と評価
課題ID:221-g
予算区分:DNAマーカー/ゲノム育種
研究期間:2002〜2006年度
研究担当者: 竹内善信、安東郁男、井辺時雄、加藤  浩、根本  博、太田久稔、石井卓朗、平林秀介、佐藤宏之、前田英郎、出田  収、平山正賢(茨城農総セ)、矢野昌裕(生物研)、田口文緒(生物研)、山本敏央(生物研)、蛯谷武志(富山農技セ
発表論文等:Takeuchi Y. et al.(2006) Breed. Sci.56:405-413.

目次へ戻る