オオムギのリポキシゲナーゼ活性簡易評価法及びリポキシゲナーゼ欠失突然変異系統


[要約]
ビールの鮮度維持や泡持ち性に悪影響を及ぼすオオムギのリポキシゲナーゼ(LOX)について簡易評価法を開発し、新規Lox-1遺伝子を有するLOX活性欠失突然変異系統「大系LM1」を選抜した。

[キーワード]オオムギ、リポキシゲナーゼ、突然変異、ビール

[担当]栃木農試・栃木分場・品質指定
[代表連絡先]電話:0282-27-2711
[区分]作物・冬作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  ビール原料であるオオムギのリポキシゲナーゼ(LOX)はビール老化臭の原因物質生成や泡持ち性低下を促進することから、低LOXオオムギの育成が求められている。しかし、一般的なLOX活性測定法は時間・労力を要するため育種規模での多点検定は難しい。そこでオオムギLOX活性の簡易評価法を確立するとともに、LOX活性欠失突然変異体のスクリーニングを行った。

[成果の内容・特徴]
1. オオムギのLOX活性はダイズLOXアイソザイム判別に用いられているメチレンブルーの色素退色能を利用した方法(Suda et al. 1995)を改変した方法により簡易に評価できる。穀皮への色素吸着を除くために粗酵素抽出上清を分析サンプルに用いることで、低LOXオオムギ系統を適切に評価できる(図1図2)。
2. オオムギのLOX活性簡易評価法を用いて、醸造用六条オオムギ品種Karlのアジ化ナトリウム処理M2 個体から種子のLOX活性を持たない「大系LM1」を選抜した。大系LM1のLOX活性欠失性は、選抜を行ったM3種子だけではなく、自殖後代(M4)及び交雑後代(F2)でも発現する。大系LM1/サチホゴールデンの交雑F2ではLOX活性の有:無が142:58に分離し、LOX活性欠失性は単一劣性遺伝子の期待分離比に適合する(χ2=1.50, P<0.05)。
3. 大系LM1のLox-1遺伝子では第3エクソン内で1塩基置換が生じ、終止コドンが形成されているが(図3)、コメの抗LOX抗体を用いたウェスタン解析でも大系LM1ではLOX-1タンパク質が正常に形成されていないことが確認できる(図4)。

[成果の活用面・留意点]
1. 大系LM1はLOX-1活性は欠失しているが、発芽時に誘導されるLOX-2アイソザイム活性については確認できていない。
2. 大系LM1は、原品種Karlと同じく、晩生、長稈、オオムギ縞萎縮病及びうどんこ病に弱い欠点をもっている。また、大系LM1ではLOX活性欠失性とは遺伝的に分離可能な花粉稔性低下突然変異も生じており、不稔がやや多い。
3. コメのLOX活性欠失系統では脂質酸化物に起因する「古米臭」の発生抑制効果が確認されている。オオムギの「麦飯臭」に対するLOX活性欠失性の効果も検討する必要がある。


[具体的データ]

図1 オオムギLOX活性の簡易評価法 図2 オオムギLOX活性簡易評価法の様子
図3 大系LM1のLox-1遺伝子変異部位 図4 抗コメLOX-3ポリクローナル抗体によるオオムギ種子タンパク質のウエスタンブロッテイング

[その他]
研究課題名:ビール醸造用極高品質中間母本の育成
予算区分:指定試験
研究期間:2005年度
研究担当者: 大関美香、長嶺敬、池田達哉(近中四農研)、鈴木保宏(作物研)、関和孝博、山口恵美子、加藤常夫

目次へ戻る