麦芽蛋白質分解が過剰になりやすいビール大麦の特徴


[要約]
麦芽蛋白質分解が過剰になりやすい品種・系統は浸麦終了時点での製麦軟化度が大きい。原麦β―グルカン含量が低く、プロテアーゼ活性が高い系統は麦芽蛋白質分解が過剰になりやすい。

[キーワード]オオムギ、麦芽品質、コールバッハ数、β−グルカン

[担当]栃木農試・栃木分場・品質指定
[代表連絡先]電話:0282-27-2711
[区分]作物・冬作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  麦芽蛋白質の分解が進みすぎるとビールの泡持ち性などが低下するため、適切な分解程度に制御できるビール大麦新品種の開発が求められている。スカイゴールデンなど最近の育成系統には蛋白質分解が過剰になりやすい系統が多い。蛋白質分解特性について効率的な育種を行うために、麦芽蛋白質の分解に関与する要因を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 蛋白質分解が過剰になりやすい品種(スカイゴールデン)は他品種に比べて、浸麦終了時(発芽0日目)にはすでに製麦軟化度(=原麦硬度−麦芽硬度)が大きい(図1)。その他の蛋白質分解が過剰な系統も同様に浸麦終了時の製麦軟化度が大きい(データ略)。
2. 製麦軟化度と蛋白質分解の指標となるコールバッハ数(=麦芽の可溶性窒素/全窒素の比率)には相関が見られ(r=0.68**)、製麦時の胚乳組織の軟化程度が大きい品種ほど蛋白質分解の分解程度が大きい(図2)。すなわち、蛋白質分解のし易さと胚乳組織の硬度変化には関連がある。
3. 胚乳組織硬度に大きく影響すると推察される細胞壁主成分の原麦β−グルカン含量はコールバッハ数に影響する。50%エタノール不溶性β−グルカン含量とコールバッハ数は負の相関(r=−0.42**)を示し、β−グルカン含量が低い系統は蛋白質分解が過剰になりやすい(図3)。
4. プロテアーゼ活性とコールバッハ数にも相関(r=0.55**)があり、高活性系統ほどコールバッハ数が大きくなりやすい(図4)。

[成果の活用面・留意点]
1. 麦芽蛋白質の分解程度には25kDシステインプロテアーゼのアイソザイム型も影響を及ぼすことが知られている。ただし、本州・九州品種にはほとんど多型が見られない。
2. 一般に育成年次の新しい高品質品種は原麦β−グルカン含量が低い。高β−グルカン化は麦芽エキス含量など麦芽品質への悪影響が予想されるので、過剰な蛋白質分解特性を回避するにはプロテアーゼ活性を削減する方向への育種が望ましいと思われる。


[具体的データ]

図1 製麦過程での製麦軟化度の変化 図2 製麦軟化度とコールバッハ数との関係(国内外の53 品種・系統)
図3 スカイゴールデン/ニシノチカラSSD 集団における50%エタノール不溶性β-グルカン含量とコールバッハ数の関係 図4 スカイゴールデン/ニシノチカラSSD 集団におけるプロテアーゼ活性とコールバッハ数の関係

[その他]
研究課題名:種子貯蔵蛋白質の溶けが適正な高品質ビール大麦品種の開発
予算区分:委託プロ(ブラニチ)
研究期間:2002〜2005年度
研究担当者:長嶺敬、加藤常夫、山口恵美子、大関美香、関和孝博、渡邊修孝

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