休眠から覚めたオオムギ種子の発芽は吸水種子内部のアブシジン酸の代謝促進を伴う


[要約]
休眠から覚めたオオムギ種子は、吸水後の種子内部でアブシジン酸(ABA)代謝酵素遺伝子(HvCYP707A1)の発現量が増大し、ABAの代謝が促進された結果、ABA量が急激に減少し、発芽し始める。

[キーワード]オオムギ、アブシジン酸、遺伝子発現、発芽、休眠

[担当]作物研・麦類遺伝子技術研究チーム、野菜茶研・野菜ゲノム研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8880
[区分]作物・冬作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  ムギ類種子の休眠は、穂発芽(穂の上での種子発芽)に関わる重要な生理的機構である。ABAは種子休眠の形成や維持に関与する植物ホルモンであるが、ムギ類種子の休眠とABA量との関係については未だ不明な点が多い。そこで、オオムギ(Hordeum vulgare L.)品種「ミサトゴールデン」を材料に、ABA生合成に関与する9?cis-epoxycarotenoid dioxygenase (NCED)をコードする遺伝子(HvNCED1, HvNCED2)と、ABA代謝に関与するABA 8’-hydroxylase (CYP707A)をコードする遺伝子(HvCYP707A1)に焦点を絞り、これら遺伝子の発現とABA量との関係、また、ABA量と発芽との関係を追究する。これらの解析を通して、オオムギ種子の休眠とABA量の制御との関係を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 受粉後60日の種子(休眠している種子、休眠種子)は、種子胚に含まれるABA量が吸水後緩やかに減少するにつれて、徐々に発芽する(図1)。また、種子胚に含まれるABA量は、後熟中(1年間4℃で保存)に減少する(図2、吸水0時間のデータ参照)。後熟後の種子(休眠から覚めた種子、非休眠種子)は、吸水後8時間で一過的に増大した種子胚のABA量が顕著に減少した後、急激に発芽する(図1)。
2. 非休眠種子の吸水過程において、HvNCEDsの発現量の一過的な増大(吸水後8時間、図省略)、および、HvCYP707A1の発現量の顕著な増大とその維持(図3)は、種子胚におけるABA量の増減(図2)に良く対応している。よって、非休眠種子では、吸水後の種子内部で高レベルに維持されるHvCYP707A1の発現がABAの代謝促進につながり、ABA量が急激に減少している可能性がある(図4)。
3. 以上の結果は、休眠から覚めたオオムギ種子の発芽には、吸水前の種子内部に含まれるABA量の減少だけでなく、吸水後の種子内部でABAの代謝が促進されることにより起こるABA量の減少が関与していることを示している(図4)。

[成果の活用面・留意点]
1. オオムギの穂発芽に関与する種子休眠機構解明のための基礎的知見となる。
2. 本成果は、中央農業総合研究センター観音台圃場において2004年に採取した種子を用いて解析した結果である。
3. 本研究で用いたHvNCEDsおよびHvCYP707A1は、種子胚で発現している主要なNCED遺伝子およびCYP707A遺伝子であるが、これらはABA量の制御に関わる遺伝子群の一部である。


[具体的データ]

図1.休眠・非休眠種子の発芽率の変化 図2.種子吸水過程におけるABA量の変化
図3.種子吸水過程におけるHvCYP707A1の発現量の変化
図4.吸水後の休眠・非種子内部におけるABAの代謝と発芽との関係(模式図)

[その他]
研究課題名:麦類の穂発芽耐性等重要形質の改良のためのゲノム育種
課題ID:221-a
予算区分:委託プロ(ブラニチ)
研究期間:2002〜2005年度
研究担当者: 蝶野真喜子、本多一郎(野菜茶研)、篠田祥子(理研)、久城哲夫(理研)、神谷勇治(理研)、南原英司(理研)、川上直人(明治大)、金子成延、渡邊好昭
発表論文等:1)Chono et al. (2006) J. Exp. Bot. 57(10):2421-2434.

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