し尿汚泥炭化物が含有する重金属類の溶出特性


[要約]
し尿汚泥炭化物が含有する亜鉛、銅、カドミウム、鉛は、し尿汚泥乾燥物が含有するものに比べ難溶化している。黒ボク土にし尿汚泥炭化物を連用すると、土壌中の亜鉛、銅濃度は増加するが、コマツナに2作連用したとき、亜鉛、銅、カドミウム、鉛の植物体中への移行および土壌浸透水中への溶出はほとんどない。

[キーワード]し尿汚泥炭化物、銅、亜鉛、溶出、作物吸収、土壌浸透

[担当]埼玉農総研・戦略プロジェクト第2研究担当
[代表連絡先]電話:048-521-9463
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  炭化処理は有機物の炭素を固定する方法として有効である。し尿汚泥炭化物の窒素の無機化率が3〜5%であるのに対し、リン酸は全リン酸量の6割程度が可給態であり、リン酸肥料としての利用が期待できる。しかし肥料利用する場合、含有されている重金属類の土壌中への蓄積や地下水への溶出が懸念される。そこで、し尿汚泥炭化物の農業利用の適否判定資料を得るために、し尿汚泥炭化物の特性と土壌に施用したときの重金属類の溶出特性を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 炭化物は乾燥物・焼成灰よりCu、Pbの溶出割合が低く、特にCuで顕著である。Znの溶出割合は乾燥物よりも低く、焼成灰と同程度だが0.1M塩酸では焼却灰よりも高い溶出割合を示す。Cdの溶出割合は焼成灰より高くなる傾向で、0.1M塩酸浸出法、1M酢酸アンモニウム浸出法(pH4.5)共に他の重金属と比較して、溶出割合が高く難溶化しにくいと考えられる(表1)。以上のことから、し尿汚泥炭化物に含まれるCd、Pb、Cu、Znの中では特にCuが難溶化していると推測できる。
2. し尿汚泥炭化物のポットでの連用試験(コマツナを栽培)では、Zn、Cuは2、3連作すると土壌中の濃度が上昇する。Znは1t/10a区よりも3t/10a区で、また上層ほど蓄積する傾向が高い。またCu濃度は10〜15cmの層でも高まることから、Cuは土壌中を移行すると推測できる(図1)。対照区でも高くなってきているのは使用した黒ボク土の重金属濃度が低いため、化学肥料由来のZn、Cuが影響しているものと考えられる。Cd、Pbの土壌中濃度は対照区と同程度で、炭化物施用による影響は認められなかった(データ略)。また、し尿汚泥炭化物のpHは6.4程度であり、施用後の土壌pHを0〜5cmの層で比較すると、1作後が対照区4.9、3t区5.3、3連作後は対照区5.6、3t区5.7となり、若干の上昇が見られたが炭化物連用による大きな変化はなかった。
3. ポット栽培における炭化物施用後のコマツナ中(表2)および土壌浸透水中(表3)のCd、Pb、Cu、Zn濃度は対照区と同程度であり、炭化物施用による大きな差は認められなかった。

[成果の活用面・留意点]
1. し尿汚泥炭化物が含有する重金属は難溶出化しているが、土壌に連続施用した場合は条件によりZn、Cuは溶出する可能性があるので注意を要する。
2. し尿汚泥炭化物の、重金属に配慮した農業場面での利用の参考となる。
3. 本試験の結果は黒ボク土で実施したものであり、土壌タイプにより反応程度が異なる可能性があるので留意する。
4. 原則として連年施用は避け、リン酸を基準に施用量を決定する。
5. 多量施用は避け、Znの重金属の蓄積防止に係る管理基準の基準値を超えないよう、 重金属類等の蓄積防止に留意する。


[具体的データ]

表1 抽出方法の違いによる溶出割合(%) 表2 植物体中の重金属濃度(mg/kg)
表3 浸透水中重金属濃度(mg/l)
図1 土壌深度別の銅、亜鉛濃度

[その他]
研究課題名:し尿汚泥(炭化物)の品質及び肥効確認試験
予算区分:一般受託
研究期間:2005〜2006年度
研究担当者:川田晃寿、相崎万裕美

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