酪農地帯の大気中アンモニア濃度の実態


[要約]
パッシブサンプラー法によって、関東北部の集約酪農地帯とその周辺の大気中アンモニア濃度は0.01〜66μgNm-3の範囲で観測される。ふん尿処理施設からの距離が1000m以下の場合に距離が小さいほど高まる。

[キーワード]大気中アンモニア濃度、パッシブサンプラー、家畜ふん尿

[担当]畜産草地研・資源循環・溶脱低減研究草地サブチーム
[代表連絡先]電話:0287-37-7558
[区分]畜産草地、共通基盤・土壌肥料、関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  家畜ふん尿に由来する窒素成分の一部はアンモニアとして大気に拡散し、再び地表に沈着する。沈着により農耕地には窒素成分が投入されるばかりでなく、自然生態系には窒素負荷が増えることによる富栄養化を通じた様々な影響を与える。アンモニアの揮散・沈着というこれまで注目されてこなかった窒素循環の一連の過程を定量的に評価するためには、大気中のアンモニア濃度が重要な情報である。そこで比較的簡便なパッシブサンプラー法を用いて集約酪農地域のアンモニア濃度を測定した。

[成果の内容・特徴]
1. セルロース濾紙(ADVANTEC51A)にリン酸(5%v/v)とグリセリン(2% v/v)を含浸させ、これを大気暴露シェルターに懸架し一定期間中に捕集されるアンモニア量を測定する方法(パッシブサンプラー法)は、エアポンプ強制通気によるアンモニア捕集法(フィルターパック法)と対応関係にある(図1)ので、測定期間の平均アンモニア濃度を読み取ることができる簡便な方法である。
2. パッシブサンプラー法により栃木県北部の集約酪農地帯とその周辺部(図2)で、2004年5月から2006年4月までの2年間に1ヶ月毎のアンモニア濃度を観測した。
3. 大気中アンモニア濃度は酪農地帯中央部の観測地点(H,A)において常時10μgN/m3以上(最大値66μgN/m3)を示すのに対し、対照山間部(Y、Km)では0.7μgN/m3以下である。中央部地点では季節変動が大きいが、地点間の共通性は見いだせない(図3)。
4. 全測定期間の地点別平均濃度は直近のふん尿処理施設からの距離が1000m以下の場合、距離が小さいほど高まる(図4)。

[成果の活用面・留意点]
1. アンモニアを介する窒素循環解明のための基礎知見である。
2. 今回の観測結果は同一の発生源を対象としたものではない。
3. アンモニアの大気濃度は発生源の強度と分布、気象条件、土地利用条件,乾性沈着量等の影響を受ける。
4. 測定した酪農地帯はほぼ平坦な地形に立地し、主たるふん尿処理手法は堆肥化である。
5. 悪臭防止法におけるアンモニアの規制値は最も厳しい値が1ppm(625μgN/m3)であり、観測された最大値はこの1/10である。


[具体的データ]

図1 パッシブサンプラー検量線 図2 観測地点図(実線は旧市町村界)
図3 大気中アンモニア濃度季節変動
図4 直近のふん尿施設からの距離と大気中アンモニア濃度平均値(2年間)の関係(バーは標準偏差,距離は対数表示)

[その他]
研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心とした農業生産活動規範の推進のための土壌管理技術の開発
課題ID:214-q
予算区分:基盤
研究期間:2006〜2010年度
研究担当者:寳示戸雅之、宮地朋子、林健太郎(農環研)
発表論文等:寳示戸ら(2006) 土肥誌77 53-57

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