rpoD 遺伝子の特異的領域に基づくバラ科植物火傷病菌の検出法


[要約]
火傷病菌rpoD 遺伝子に特異的な塩基配列を含むプライマーを用いたhot-start PCR法で、断片長375塩基対のDNAを増幅することにより、菌密度104cfu/ml以上の火傷病菌を特異的に検出でき、近縁菌や常在菌(表生菌)との識別が可能となる。

[キーワード]火傷病菌、プライマー、PCR、rpoD 遺伝子、ナシ枝枯細菌病菌、Erwinia pyrifoliae

[担当]中央農研・病害虫検出同定法研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8931
[区分]共通基盤・病害虫(病害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)
[分類]行政・参考

[背景・ねらい]
  火傷病は、国内未発生のリンゴ、ナシ等のバラ科植物の重要病害である。我が国は火傷病発生国から火傷病菌の宿主について輸入を禁じている。しかし、国際的な物流及び人の往来の増大とともに、火傷病菌の侵入リスクは高まっていると考えられる。
  農林水産省植物防疫課が作成した「火傷病防疫指針」に基づき植物防疫所及び都道府県は監視と同定体制を敷いている。本研究では、火傷病菌の同定精度を上げるため、系統解析に使われているrpoD 遺伝子領域から火傷病菌特異的な新規プライマーを設計し、PCRによる検出法の開発を行う。

[成果の内容・特徴]
1. 分離国が異なる火傷病菌28菌株、火傷病菌とごく近縁な細菌に分類されているナシ枝枯細菌病菌9菌株およびErwinia pyrifoliae 2菌株についてrpoD 遺伝子の部分的塩基配列676bpを用いて系統樹を作成すると、火傷病菌グループとナシ枝枯細菌病菌・Erwinia pyrifoliae グループの2群に大別される(図1)。
2. 火傷病菌rpoD 遺伝子に特異的な塩基配列を利用して設計したプライマーEarpoD 2f(5’-GGCGCGTGAAAAGTTCAA-3’)とEarpoD 1r(5’-AGGCCGCGGTTCACATCT-3’)を用いてhot-start PCR (94℃1分、65℃45秒、72℃1分を30サイクル)を行うと、火傷病菌からは特異的に断片長375bpのDNAが増幅されるが、ナシ枝枯細菌病菌およびErwinia pyrifoliae ではDNAの増幅は全く認められない(図2)。
3. EarpoD 2f/EarpoD 1rプライマーを用いた上記PCRにおいて、火傷病菌の検出限界はおよそ104cfu/mlである。
4. 火傷病菌用選択培地であるM-MS培地を用いても、健全なニホンナシの花器からは、火傷病菌以外の表生細菌が生育するが、EarpoD 2f/EarpoD 1rプライマーを用いた上記PCRでは、これらの細菌からDNAが増幅されないため、火傷病菌との識別が可能である(データ省略)。

[成果の活用面・留意点]
1. 非特異反応を避けるためには、抗Taqポリメラーゼ抗体を用いたhot-start PCRで行う必要がある。
2. 本プライマーを用いたhot-start PCR法は「火傷病防疫指針の通常同定法」における使用を想定している。


[具体的データ]

図1 火傷病菌、ナシ枝枯細菌病菌、Erwinia pyrifoliaeのrpoD遺伝子部分的塩基配列の系統樹(Ecar:Erwinia cartovora, Ecoli:Escherichia coli, Em:Erwinia mallotivora) 図2 EarpoD特異的プライマーを用いたPCR結果

[その他]
研究課題名:病害虫の侵入・定着・まん延を阻止するための高精度検出・同定法の開発
課題ID:521-b
予算区分:基盤研究費、高度化事業
研究期間:2004〜2006年度
研究担当者: 松浦貴之、畔上耕兒、井上康宏、佐々木厚子(果樹研)、島根孝典(果樹研)、上松寛(横浜植防)、塚本貴敬(横浜植防)、水野明文(横浜植防)
発表論文等:Matsuura et al. (2007) J. Gen. Plant. Pathol. 73(No.1): 53-58

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