水田作大規模経営が耕地の面的集積を図る上での借地選好


[要約]
すでに遠方への耕地分散が進行している静岡では圃場区画、自宅からの距離、団地化状況についての重要度がほぼ同程度あるのに対し、集落内の耕作地が多い滋賀では自宅からの距離の重要度が高く、区画の重要度は低い。

[キーワード]面的集積、借地選好、選択実験、水田作大規模経営、コンジョイント分析

[担当]中央農研・農業経営研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8481
[区分]共通基盤・経営、関東東海北陸農業・経営
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
地域的な農地利用調整を行う上で、水田作大規模経営が借地拡大の際に耕地の面的集積にかかわって何を重視しているかを予め明らかにしておく必要がある。
 そこで、個別大規模経営への農地集積が進展している点で共通するが、耕地の面的集積状況や集積戦略の異なる静岡と滋賀湖北地域の大規模経営に対して借地拡大を想定した選択型コンジョイント分析による借地選択実験を行い、両者の借地選好の特徴と違いを明かにする。

[成果の内容・特徴]
1. 選択実験に用いた経営の数及び平均耕作面積は滋賀が24経営44.9ha、静岡が16経営34.2haである。規模別でみると滋賀の方が若干大規模層に偏っている(表1)。
2. 最遠圃場までの距離と経営耕地に占める地元集落圃場の割合の2指標からみた大規模経営における現況での圃場分散は静岡に比べて滋賀では非常に小さい。また、水稲作に適合する圃場の大きさについて滋賀では40a未満という回答比率が高い(表2)。
3. 選好分析の結果、静岡の大規模経営では圃場区画、団地化状況、自宅からの距離についての重要度はほぼ同程度であるのに対し、滋賀の大規模経営では自宅からの距離についての重要度が高く、圃場区画の重要度は低い(図1)。すでに遠方への圃場分散が進行している静岡では、距離の重要度は特段高くなく、他の要素の重要度と同等である。一方、滋賀では小区画を好む経営が多いことから圃場区画の重要度が低い。
4. 経営属性との関係では、規模拡大のための拠点(点在耕地)を多く持つべきとする経営では、距離の重要度が低く区画の重要度が高い点、拡大希望面積が大きい経営ほど距離の重要度が低い点については滋賀と静岡でほぼ同じ傾向となっている(表3)。
5. 以上の結果から、面的集積に向けた農地利用調整において、集落を越えた分散が進行している静岡では遠方での連担化が、また、滋賀では地元集落を主体とした近距圏内への集積調整が重要である。ただ、滋賀の場合でも、積極拡大志向の経営は距離よりも連担化・区画の重要度が高く、それらの経営に対しては、集落外での借地連担化に向けた取り組みが求められる。

[成果の活用面・留意点]
1. 農地利用調整を行うメンバー(役場の職員、JAの職員、普及指導員、農業委員、農地貸借の当事者等)に対して有益な情報となる。
2. 借地選択に際して何を重視するかについて、静岡でプレ調査した結果に基づき、面的集積にかかわって重視度が強かった3要因を取りあげた。プレ調査では、収量、地代排水条件等の重視度も調査したが、面的集積に直接関係しないので採り上げなかった。
3. 滋賀の地元集落での集積率の高さは、集落の水田面積が静岡に比べて相対的に大きいこと、農地利用における集落規範の高さなどに影響されている可能性がある。また、滋賀で大区画を好まないのは水田土壌が重粘土質であることの影響が考えられる。

[具体的データ]
表1 耕作面積規模別系英数と平均耕作規模

表2 圃場分散状況の実態および水稲に適した区画についての経営者の意向

図1 静岡と滋賀小野大規模経営に対する借地選択実験の結果

表3 拡大に関する考え方(属性)別に経営を分類した上での選択実験結果

[その他]
研究課題名:関東・東海・北陸地域における個別経営体の総合的経営管理手法及び多様な主体間連携による地域活性化手法の開発
中課題整理番号:211a.3
予算区分:基盤
研究期間:2006〜2009年度
研究担当者:平野信之

目次へ戻る