新技術の現地実証における組織間の連携方策


[要約]
新技術の現地実証においては、研究、行政、普及、経営体のそれぞれの組織の担当者が協働する場を形成し、互いに連携するとともに、それぞれの組織において調整役として行動することにより、各組織の持つ役割を効果的に引き出すことができる。

[キーワード]現地実証、組織間連携、普及

[担当]千葉農林総研・企画経営部・流通経営研究室
[代表連絡先]電話:043-291-0151
[区分]関東東海北陸農業・経営
[分類]技術及び行政・参考

[背景・ねらい]
技術革新は、収量や品質の向上、費用の低減、規模の拡大等、技術体系の再構築を通して経営を変革する重要な方策である。そのため、新技術の普及・定着を効果的に進めて行く必要があり、現地実証が重要な手段とされている。しかし、研究が個別的に対応し、必要な支援が十分に行えず、成果が挙がらない場合も多い。そこで、技術の普及・定着場面に関係する各組織の担当者の行動に着目し、当事者だけが持ち得る知識や、現地実証場面における固有の情報を、担当者間及び関係する組織の間でどのように共有し、支援したかについて、千葉県農業試験場(現千葉県農林総合研究センター)が八千代市Y地区において行った乾田直播栽培現地実証試験を事例に分析し、新技術の現地実証における組織間連携の方策とそこでの担当者の役割について明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 八千代市Y地区は、1991年から「低コスト水田農業大区画圃場整備事業」を導入し、稲作の担い手として、法人Yが設立されている。
2. 現地実証に関わる組織の担当者(本事例では研究リーダー、担当普及員、行政担当部局担当者、法人代表)は、現地実証という具体的な活動の場において、多くの機会で一緒に行動し、様々なコミュニケーションや共通体験を行う。その結果、現地実証という場を通じて、地域や経営体に固有の情報や、栽培技術に関わる情報等、それぞれが持つ知識・情報を相互に共有することが可能となる(及び)。
3. 各担当者は、それぞれが属する「研究プロジェクトチーム」、「行政担当部局」、「普及組織」、「経営」において現地実証の実施に関する決定や実行に関する調整者としての役割を担うことで、現地実証の場で共有された情報と意思決定に従ってそれぞれの組織の役割を方向付けすることが可能となる(及び)。
4. 担当者の行動は、(1)支援対象に固有の情報や高度な技術的知識の共有、(2)それらの情報を所属する組織へ伝達し調整と対応を図る、(3)支援のあり方に関する組織間の役割調整、(4)支援の整合性に対するモニタリングを通した検証と新たな対応の構築、というプロセスに整理できる。
5. 法人Yでは、現地実証を通して、(1)育苗や苗箱のハンドリングが不要、(2)労力分散の効果、(3)春作業の省力化、(4)レーザーレベラー導入による苗立率の向上や耐倒伏性における栽培上の安定性を確信し、(5)各種事業による機械導入、(6)作業受託面積の拡大により、直播面積を実証当初の1.7haから5年後には7.4haまで拡大している。

[成果の活用面・留意点]
1. 乾田直播栽培技術の導入は、圃場基盤、作付け・栽培管理、機械利用、土地利用等を体系的に捉え検討する必要がある。そのため本成果は、経営体、行政、普及、研究に関わる各組織を連携させようとする動機が強く働いている事例の分析結果と言える。

[具体的データ]

図 現地実証試験における連携体制

表 各担当者の具体的行動

[その他]
研究課題名:開発技術の導入を支援する方策の解明
予算区分:県単
研究期間:2007〜2008年度
研究担当者:鶴岡康夫
発表論文等:鶴岡康夫(2008)農業普及研究、13(2):56-68

目次へ戻る