経腟採卵を用いて泌乳初期の乳牛から胚を生産することができる


[要約]
泌乳初期の乳牛に経腟採卵を行ったところ、泌乳後期に比べて卵胞数が有意に少なく採取卵数は少ない傾向であるが、胚盤胞期への発生率に有意差は認められない。また、分娩後週次及び供卵牛個体により胚盤胞期への発生率に有意差は認められない。

[キーワード]乳牛、泌乳初期、経腟採卵、胚盤胞期への発生率

[担当]神奈川畜技セ・畜産工学部
[代表連絡先]電話:046-238-4056
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
過剰排卵処理による牛胚の採取は、分娩後の卵巣機能の回復と子宮修復が完了した後に行われる。乳牛では乳量の増加が繁殖機能の回復時期と重なり、エネルギー充足の不足により、さらに胚採取の実施が遅れることが考えられる。経腟採卵は、高齢や繁殖障害などの理由で過剰排卵処理による胚採取が困難な供胚牛から移植用の胚の生産が可能な技術であり、泌乳初期の乳牛に応用すれば分娩後早期から胚を確保することが可能になる。

[成果の内容・特徴]
1. 供卵牛を泌乳初期群(分娩後2〜10週)と泌乳後期群(分娩後10〜24ヶ月)の2群に分けて経腟採卵を実施する。超音波診断装置と経腟用プローブを用いて供卵牛の卵巣より卵子を採取する。採取した卵子は成熟培養(5%牛胎子血清、FSH、E2、ピルビン酸添加TCM199)、媒精(機能性ペプチド研究所:IVF100)、発生培養(5%牛胎子血清添加修正合成卵管液、卵丘細胞と共培養)を行う。
2. 卵胞数は泌乳初期群が泌乳後期群に比べて有意に少なく、採取卵数も泌乳初期群が少ない傾向である。分割率は泌乳初期群が48.9%、泌乳後期群が56.3%、胚盤胞期への発生率は各々19.1%及び30.0%であり、両群間に有意差は認められない(表1)。
3. 泌乳初期群(分娩後3〜4週)の供卵牛に2週間間隔で4回の経腟採卵を行い、採取した卵子を体外受精する。
4. 分娩後週次別の卵胞数は11.3〜15.8個、採取卵数は3.8〜6.5個であり週次間に有意差は認められない。分割率は58.3〜66.2%、胚盤胞期への発生率は23.1〜37.5%であり週次間に有意差は認められない(表2)。また、卵胞数と採取卵数は供卵牛個体間に有意差が認められるが、分割率と胚盤胞期への発生率は供卵牛個体間に有意差は認められない(表3)。
5. 泌乳初期群において経腟採卵後の乳量の減少は認められない(図1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 経腟採卵を用いることにより乳牛においても分娩後早期に胚を確保できる。
2. 供卵牛は発情周期や卵胞波の調節を行っていない。
3. 供卵牛の経腟採卵後の発情回帰日数や受胎成績についても検討する必要がある。

[具体的データ]

表1 供卵牛の乳期が胚生産に及ぼす影響

表2 分娩後週次が胚生産に及ぼす影響

表3 供卵牛個体別の胚生産成績

図1 泌乳初期群の乳量の推移

[その他]
研究課題名:生体内卵胞卵子を用いた胚生産技術の開発
予算区分:県単
研究期間:2007〜2008年度
研究担当者:秋山清、坂上信忠、仲澤慶紀

目次へ戻る