新品種「ひだ国府紅しだれ」の実生台木はモモ若木の枯死障害回避に有効


[要約]
「ひだ国府紅しだれ」は、岐阜県高山市国府町在来の観賞用ハナモモから育成されたモモの台木用品種で、本品種の実生を台木にすることで若木の枯死障害を軽減できる。主要品種との接ぎ木親和性が高く、果実品質は慣行台木と同等である。

[キーワード]モモ、台木、ひだ国府紅しだれ、枯死障害

[担当]岐阜中山間農研・試験研究部
[代表連絡先]電話:0577-73-2029
[区分]関東東海北陸農業・果樹
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
近年、凍害が原因と考えられるモモ若木の枯死障害が全国的に増加しており、その防止対策の早期確立が強く求められている。このため、枯死障害の防止に有効な台木を育成するため、1996年に岐阜県高山市国府町在来の観賞用ハナモモの自然交雑実生の中から有望系統を選抜し、2006年3月に宮代隆夫氏と岐阜県の共同で品種登録出願し、2008年3月に「ひだ国府紅しだれ」として品種登録された。そこで、本品種のモモ用台木としての特性を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 本品種は、樹姿が枝垂れ性で樹高が低く、花弁は紅〜緋色で八重咲きである。果実は平均35gと小さく、粘核で双胚果の発生が多い。満開期は4月下旬で、成熟期は満開後約150日の9月下旬〜10月上旬である(表1)。
2. 実生の樹高や幹径などの揃いは良く、根量が多く深根性で、台木に使用した場合には、主要品種との接ぎ木親和性が高い(表2)。
3. 実生台に使用した場合、「おはつもも」や「長野野生桃」などの慣行台木に比べて若木の枯死や主幹部障害の発生が大幅に軽減される(表3)。
4. 穂木品種の樹勢が弱くなり、樹冠の拡大は慣行台木に比べてやや遅れる。また、6年生樹までの収量は「長野野生桃」よりやや少ないものの、果実品質には大きな差がない(表4)。

[成果の活用面・留意点]
1. 種子貯蔵中の腐敗を防止するため、核に付着した果肉を十分に洗い落としてから貯蔵する。
2. 発芽した実生の中には、一般品種との受粉により枝垂れ性を示さない他殖個体が混在する場合があるが、台木には枝垂れ性を示す自殖個体を使用する。
3. 穂木品種の樹勢がやせ地では特に弱くなるため、樹勢の維持・強化に努める。
4. 本品種は県外への利用許諾が可能で、窓口は岐阜県総合企画部研究開発課である。

[具体的データ]
表1 「ひだ国府紅しだれ」の主な生育特性(2003〜2007年)
表2 「ひだ国府紅しだれ」実生台木の主要品種との接ぎ木親和性(2009年) 表3 台木の違いが「白鳳」5年生樹までの枯死樹および主幹部障害の発生に及ぼす影響(2008年)
表4 台木の違いが「白鳳」6年生樹の生育、収量および果実品質に及ぼす影響(2009年)
[その他]
研究課題名:モモの枯死原因究明と対策技術の開発
予算区分:県単
研究期間:1996〜2009年度
研究担当者:宮本善秋、神尾真司、川部満紀、宮代隆夫*、井上義隆*、舩坂正信*、山脇高男*、堰登貴男*(*上広瀬果樹組合)
発表論文等: 1)神尾ら(2006)園学研5(4):447-452
2)宮代隆夫、岐阜県(2008)品種登録第16479号

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