イオンビーム照射による芳香シクラメンの花色変異体の作出


[要約]
マルビジン3,5ジグルコサイドを主要色素とする紫色の芳香シクラメン「香りの舞い」にイオンビームを照射することにより、デルフィニジン3,5ジグルコサイドを主要色素とする赤紫色の変異体が得られる。

[キーワード]芳香シクラメン、イオンビーム、デルフィニジン

[担当]埼玉農総研・園芸研・野菜花担当
[代表連絡先]電話:0480-21-1113
[区分]関東東海北陸農業・花き
[分類]v

[背景・ねらい]
シクラメンの園芸品種(Cyclamen persicum)と芳香性野生種(C. purpurascens)の種間交雑により育成した芳香シクラメンの花色の種類を増やすために、イオンビーム照射による花色変異体の育成を試みる。今回は、シクラメン属植物に存在しないデルフィニジン系アントシアニンを主要色素とする変異体の作出を目的とする。イオンビーム照射は遺伝子の破壊を生じるために、化合物の代謝を抑制する変異の発現が期待される。そこで、デルフィニジンの代謝産物であるマルビジンの3,5位配糖体を主要色素とする紫色の芳香シクラメン「香りの舞い」に対して照射を行う。

[成果の内容・特徴]
1. 芳香シクラメン品種「香りの舞い」の種子を無菌的に培地上には種し、暗黒で培養する。暗黒下の培養で得られた黄化葉柄の切片に320 MeV炭素イオンビームを表1に示す線量で照射後、培養により再分化個体を獲得し、M1(照射当代)集団を育成する。自家受粉によりM2(照射二代)集団を育成し、花色変異体を選抜する。花色変異体を得るための適正線量は2 Gyである(表1)。
2. 「香りの舞い」と花色変異体の花弁は基部の濃く着色する部位(アイ)とその他の部位(スリップ)に分かれる(図1CD)。「香りの舞い」のスリップは紫であるのに対して、変異体のスリップは赤紫である。
3. 「香りの舞い」と花色変異体の花弁をアイとスリップに分けて、10%酢酸でアントシアニンを抽出し、530 nmの吸光検出を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析する。
4. 「香りの舞い」のスリップの主要色素はマルビジン3,5ジグルコサイドであり(図2A)、花色変異体の主要色素はデルフィニジン3,5ジグルコサイドである(図2B)。「香りの舞い」と花色変異体のアイの主要色素の種類もスリップの主要色素と同じある(データ省略)。花色変異体ではデルフィニジンの3’および5’位の水酸基のメチル化酵素をコードする遺伝子が影響を受けて、マルビジンへの代謝が阻害されていることを示唆する。

[成果の活用面・留意点]
1. シクラメン属植物においてデルフィニジン系色素をもつ園芸品種および野生種はないことから、今回得られた変異体はシクラメンのアントシアニンの研究に役立つ。
2. 変異体は、芳香シクラメン品種の中には見られない新規の花色を有することから、新品種育成のための貴重な遺伝資源となる。

[具体的データ]
表1 芳香シクラメン(Cyclamen persicum × C. purpurascens) 「香りの舞い」の再分化と変異体誘導に及ぼすイオンビーム照射の影響
図1 原品種「香りの舞い」とその変異体の形態的特徴
図2 原品種「香りの舞い」と変異体のスリップに含まれるアントシアニンのHPLC のクロマトグラム。
[その他]
研究課題名:花色、香気成分の解析法と育種法の開発による「新芳香シクラメン」の育成
イオンビームとゲノム情報を活用した効率的な花き突然変異育種法の開発
予算区分:先端技術高度化事業
生研センター異分野融合研究事業
研究期間:2002〜2011年度
研究担当者:近藤恵美子1)、中山真義2)、亀有直子1)、谷川奈津2)、森田裕将2)、秋田祐介3)、長谷純宏3)、田中淳3)、石坂宏1)
1)埼玉農総研、 2)(独)農研機構花き研究所、3)(独)日本原子力研究開発機構
発表論文等:Plant Biotechnology 26, 565-569 (2009)

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