出穂期の連続通水による水田水温抑制が水稲の高温障害低減に及ぼす効果


[要約]
コシヒカリの高温障害発生年において、出穂期以降の連続通水により水田水温の上昇を1.4〜2.3℃抑制することで、基部未熟粒の割合が減少し玄米外観品質が向上する。

[キーワード]水田水温、高温障害、出穂期、連続通水、基部未熟粒、玄米外観品質

[担当]愛知農総試・環境基盤研究部・農業工学グループ、作物研究部・作物グループ、水田利用グループ
[代表連絡先]電話:0561-62-0085
[区分]関東東海北陸農業・作業技術、関東東海・水田作畑作
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
愛知県における水稲品種コシヒカリの栽培は、出穂期が7月下旬から8月上旬であり、登熟期が高温条件となりやすい。近年の気候温暖化や異常気象により高温障害(基部未熟粒の増加による玄米外観品質の低下)が発生しやすく、対策技術の開発は緊急の課題である。これまでに、栽培面の対策(施肥法、移植時期、栽植密度)は多く提示されているが、作業技術面からの対策は少ない。
 このため、米の品質確保と農業用水の有効利用の観点から、高温障害が予測される年において、水田水温上昇の抑制が玄米外観品質に与える影響を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. コシヒカリ移植栽培水田において、水田水温上昇の抑制のためパイプライン施設の給水口(φ50mm)から日平均気温より3℃以上低い用水を出穂期以降20〜30日間133〜683mm/dで連続通水すると、ほ場内平均水面水温は対照ほ場に対して1.4〜2.3℃低下する(表1)。
2. 133〜683mm/dの連続通水は、ほ場内の水口・中央・水尻いずれの位置でも水面水温上昇を抑制できる(図1)。
3. 水温抑制ほ場では対照ほ場と比べて基部未熟粒割合が減少し、整粒歩合は向上する(表2)。
4. 試験ほ場内の計測地点水面温度差(水温抑制区−対照区)と基部未熟粒発生割合差(水温抑制区−対照区)には相関がある(図2)。

[成果の活用面・留意点]
1. 出穂期以降の日平均気温が28℃を越え高温障害が予測される場合において、水田水温上昇の抑制は、高温障害対策の技術確立に有用である。
2. 用水を利用する連続通水にあたっては、計画用水量の4〜20倍の水量が必要なため、地区の水利慣行、水利権及び用水管理者である土地改良区など利水関係者との調整が必要である。

[具体的データ]
表1 水温抑制期間中の用水量と温度
表2 高温障害発生年の生育と品質
図1 水温抑制期間中の水面水温 図2水面水温と基部未熟粒の関係
[その他]
研究課題名:稲の高温障害対策調査(農業用水の活用と水需要動向)
予算区分:委託(東海農政局)
研究期間:2006〜2009年度
研究担当者:小室正人、杉浦和彦、横井久善、谷俊男、田中雄一、本庄弘樹、野々山利博、宮本晃、鈴木博之

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