浅耕栽培した硬質小麦の収量を高める全量基肥施用


[要約]
硬質小麦の浅耕栽培において化成肥料と窒素溶出パターンが異なる2種類の被覆尿素肥料を配合した肥料の全量基肥施用は、施肥窒素の利用率が高く生育量が増加し、収量と原麦蛋白質含有率を安定的に確保できる省力施肥技術として有望である。

[キーワード]浅耕栽培、全量基肥施用、被覆尿素肥料、硬質小麦

[担当]三重農研・作物研究課
[代表連絡先]電話:0598-42-6354
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
三重県では水田輪作体系の超低コスト化に向けて小明渠浅耕播種機を用いたイネ・ムギ・ダイズの浅耕栽培技術の体系化に取り組んでいる。小明渠浅耕播種は圃場表面水を効率的に排水することで播種後の降雨に対して出芽が安定し、さらに播種作業や管理作業の省力化や作業性の向上に有効であり、適期管理や適期収穫によるムギの高品質化に寄与できる。しかし、浅耕栽培は慣行耕起栽培と同様の施肥体系では生育量が不足し、収量はやや低下する傾向にある。本県では収量・品質確保に2〜3回の窒素追肥が必要な硬質小麦が1633ha(2009年作付面積の29%)作付けされているが、後期の追肥作業は水稲の育苗〜移植作業と競合するため省力的な施肥技術が求められている。そこで、小明渠浅耕播種機を用いた浅耕栽培における硬質小麦の省力施肥技術の開発を目的に、被覆尿素肥料を利用した全量基肥施用の効果を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. 全量基肥施用には、窒素溶出パターンが異なる30日リニアタイプと30日シグモイドタイプの2種類の被覆尿素肥料(図1)と化成肥料を同一窒素成分量に配合した肥料が適する。
2. 全量基肥施用は、化成肥料の分施に比べて施肥窒素の利用率が高く、生育量、窒素吸収量が増加し穂数を確保しやすい(表1)。
3. 全量基肥施用は、実肥施用(県基準の3回追肥体系)および止葉多肥(一部現地で実施されている止葉期の多窒素追肥)に比べて穂数が多く、実肥施用より20〜30%多収である(表1図2)。
4. 全量基肥施用の蛋白質含有率は実肥施用より低くなるが、止葉多肥や実肥無施用と比べると年次変動が小さく、品質目標基準値11.5%以上〜14.0%以下を確保しやすい(図2

[成果の活用面・留意点]
1. この研究成果は農業研究所内の水田転換畑(細粒灰色低地土)で硬質小麦品種「ニシノカオリ」を供試し、前作稲藁が全面被覆した圃場を事前に浅耕処理し、小明渠浅耕播種機を用いて設定耕深7cmで浅耕播種した試験より得られたものであり、小麦の浅耕栽培における施肥技術開発の参考となる。
2. 施肥窒素量15kg/10aの場合の概算肥料代金(2009年現在)は、全量基肥施用では9,094円、実肥施用(基肥は高度化成、追肥はNK化成1回と硫安2回)では7,229円であり、3回の追肥作業労賃840円を加えても全量基肥施用は施肥コストが1,025円高くなると試算され、コスト高を収量で補うには1等麦で32kg/10a以上の増収が必要である。

[具体的データ]
図1 被覆尿素肥料の窒素溶出率の推移(2008)

表1 窒素施肥法と生育、収量構成要素、品質、施肥窒素利用率

図2 窒素施肥法と収量および原麦蛋白質含有率
[その他]
研究課題名:温暖地湿田のイネ直播・浅耕栽培を基軸とする水田輪作技術の体系化と実証
予算区分 :委託プロ(担い手)
研究期間 :2006〜2009年度
研究担当者:北野順一、中山幸則、出岡裕哉、中西幸峰、大西順平

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