水稲系統「北海287号」「北海PL9」の低アミロース性遺伝子と選抜マーカー


[要約]
「北海287号」の低アミロース性は第6染色体上の新規遺伝子Wx1-1に支配され、「北海PL9」のそれは第9染色体短腕上の遺伝子座qAC9.3に支配される。両遺伝子は、各々DNAマーカーWxU1L3およびRM23804によって選抜できる。

[キーワード]やや低アミロース、良食味、QTL、DNAマーカー、遺伝子

[担当]作物研・稲マーカー育種研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8950
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作、北海道農業・水田・園芸作
[分類]研究・普及

[背景・ねらい]
アミロース含有率は炊飯米の食味を決定する主要成分であり、適度な低アミロース性の付与は良食味品種育成の重要な手法である。しかし、アミロース含有率は登熟温度等の環境要因の影響を受けやすく、また測定には一定量の米サンプルが必要であるなど、成分測定による含有率の微細な改変は繁雑であった。そこで、環境要因に左右されず幼苗でも選抜可能なDNAマーカーによる高効率・高精度の低アミロース米育種技術を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 良食味水稲品種「おぼろづき」の親系統「北海287号」の低アミロース性は、第10イントロンに37塩基の欠失を持つ第6染色体上の新規遺伝子Wx1-1に支配される(図1)。Wx1-1は、欠失を指標に設計したDNAマーカーWx-U1L3によって選抜できる(図2)。プライマーの塩基配列は、Wx-U1: CAGGCTGGAGGAACAGAAGG、およびWx-L3: TCACCTTGCCCGGATACTTC である。
2. 耐冷性中間母本系統「北海PL9」の低アミロース性は、第9染色体短腕上の遺伝子座qAC9.3 に支配される(図3)。本遺伝子座の北海PL9型対立遺伝子は、近傍のDNAマーカーRM23804を用いて選抜できる。
3. 「北海287号」/「北海PL9」の交配後代においては、Wx1-1はアミロース含有率を7〜8ポイント低下させる。qAC9.3 座の北海PL9型対立遺伝子はアミロース含有率を2〜3ポイント低下させる。2つの遺伝子は相加的に働く(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 本研究で得られた遺伝情報およびDNAマーカーは、「北海287号」および「北海PL9」を供与親とした低アミロース性を選抜育種するのに利用できる。
2. RM23804マーカーは、International Rice Genome Sequencing Project (2005, Nature 436:793-800) によって開発・公開されているものである。
3. 本研究は、「北海287号」/「北海PL9」の後代系統を作物研究所圃場で栽培して得られた結果であり、検出された2遺伝子のアミロース低減効果は地域毎に再確認する必要がある。
4. Wx1-1の遺伝子情報の活用には許諾が必要である。

[具体的データ]
図1 北海287号の低アミロース遺伝子Wx1-1の構造
図2 プライマーWx-U1L3を用いたWx1-1の検出 図3. 第9染色体上に検出された北海PL9の低アミロース性QTL
表1 Wx1-1およびqAC9.3各々についてホモ型系統のアミロース含有率
[その他]
研究課題名:稲病害虫抵抗性同質遺伝子系統群の選抜と有用QTL遺伝子集積のための選抜マーカーの開発
中課題整理番号:221g
予算区分:委託プロ(新農業・政策ニーズ)(DNAマーカー)
研究期間:2004〜2009年度
研究担当者:安東郁男、竹内善信、佐藤宏之、青木法明、鈴木保宏、平林秀介、黒木 慎、清水博之、安藤 露(STAFF研) 発表論文等:「低アミロース性を支配する新規遺伝子及び低アミロース米品種の識別方法」特開2008-072971

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