登熟期の高温によるイネ穎果の水分分布の変化


[要約]
磁気共鳴画像法により可視化したイネ穎果内の水分分布によると、登熟期に高温ストレスを受けた場合、乳熟期の胚乳中心部における水分の早期凋落は、胚乳中心部の白濁の発生と時期的・空間的にほぼ一致する。

[キーワード]イネ、磁気共鳴画像法、高温登熟、白未熟粒、水分分布

[担当]作物研・稲収量性研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8952
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
登熟期の高温によりデンプン粒の発達が異常となり白未熟粒が形成されるが、その生理メカニズムに関しては、デンプン合成に関わる酵素の活性や遺伝子発現の変化に着目した研究がなされてきた。一方、胚乳内の水分状態は酵素活性などを通してデンプン合成に影響すると考えられるが、高温ストレスの水分動態への影響と白未熟粒形成との関係は明らかではない。
 そこで、穎果内の水分分布と白未熟粒発生との時期的・空間的な関係を明らかにする目的で、磁気共鳴画像法(MRI)を用い、高温ストレス下におけるイネ穎果内の水分動態を調査する。

[成果の内容・特徴]
1. 水稲品種「コシヒカリ」を1/5000aポットで栽培し、開花期以降、昼夜温(13/11 h)が26/20℃の対照区と33/27℃の高温区のバイオトロンで生育させ、穂の上位3番目の枝梗までに着生する強勢穎果を実験に供試する。
2. 高温区で生育させた場合の穎果では、乳熟期から糊熟期にかけて白濁が発生し始め、完熟時に胚乳中心部に白濁を形成する心白粒や乳白粒、背部に白濁を形成する背白粒が多発する(図1)。
3. 高温区の胚乳中心部の白濁部では、アミロプラストの間に大きな隙間が見られ、単粒と不完全な複粒のアミロプラストが多く観察される(図2)。すなわち、デンプン蓄積の初期段階においてデンプン合成が阻害され、デンプン粒の発達が不十分なまま成熟期を迎えたと考えられる。
4. MRIを用いて乳熟期・糊熟期・黄熟期におけるイネ穎果の中央部横断面の水分分布をみると、高温区は対照区と比べて、乳熟期では粒重は同程度であるが胚乳中心部の水分が低く、一方、糊熟期以降では高い特徴がある(図3)。すなわち、乳熟期から糊熟期にかけての胚乳中心部における水分の早期凋落は、胚乳中心部における白濁の発生と時期的・空間的にほぼ一致する。

[成果の活用面・留意点]
1. 高温による穎果の生育促進を考慮に入れ、高温区では対照区に比べて糊熟期で1日、黄熟期で2日早い開花後日数の穎果を実験に供試している。
2. 水分分布はMRIで測定したプロトン密度強調画像をもとに推定し、シグナル強度が高いほど、水分が高いことを示す。
3. 高温ストレスによる心白粒や乳白粒の発生には水分動態が関係している可能性があるが、背白粒の発生との関係については不明である。
4. 高温登熟による白未熟粒発生の基礎的知見になる。

[具体的データ]
図1 対照区と高温区における登熟粒の横断面観察図2 対照区(上図)と高温区(下図)の玄米の胚乳中心部における走査電子顕微鏡観察
図3 MRIよる登熟粒横断面のプロトン密度強調画像
[その他]
研究課題名:イネゲノム解析に基づく収量形成生理の解明と育種素材の開発
中課題整理番号: 221-c
予算区分: 交付金(実用遺伝子)
研究期間: 2007〜2008年度
研究担当者: 石丸 努、近藤始彦、岩澤紀生、井田 仁、堀金明美(食総研)、吉田充(食総研)
発表論文等: Ishimaru T. et al (2009) J. Cereal Sci. 50: 166-174.

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