麦類のホールクロップサイレージを用いた水田2毛作体系による粗飼料生産の拡大


[要約]
WCS用途の麦類を取り入れた水田作付体系は、WCS用稲の収穫機械を活用できるほか、跡作WCS用稲の収量が安定化すること、WCS用稲との組み合せにより粗飼料の周年給与が容易になるなどの利点があり、研究および行政政策の素材として有望である。

[キーワード]WCS用ムギ、WCS用稲、水田2毛作、作付体系、飼料イネ専用収穫機

[担当]三重農研・伊賀農業研究室
[代表連絡先]電話:0598-42-6354
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作、畜産草地(草地)
[分類]技術および行政・参考

[背景・ねらい]
水田を活用した自給粗飼料生産としてWCS用稲の栽培が定着しはじめ、三重県では4地域に生産拠点ができつつある。このうち鈴鹿市、伊賀市、津市の3地域では、飼料イネ専用収穫機の有効活用などを目的として約20haのホールクロップサイレージ用麦類(以下「WCS用ムギ」)の生産が試みられている。しかし全国的にみてもWCS用ムギ生産の報告事例は極めて少ない。そこで現地でおこなわれているWCS用ムギ生産の特徴と課題を整理することで、食料および飼料自給率向上への行政政策および研究につなげる。

[成果の内容・特徴]
1. WCS用ムギの収穫作業は、現地に導入されているWCS用稲の収穫機械体系がそのまま活用できる。また、収穫作業はWCS用稲と同様に4人以上の組作業となるため、稲作との複合経営では水稲移植作業との競合が課題となる(図1)。
2. 現地におけるWCS用ムギの収穫時期は概ね5月中旬で、小麦の収穫よりも約2週間ほど早い。また、WCS用ムギ跡の水田には麦稈がないため速やかに耕起して代かき作業ができることからWCS用稲は5月下旬に移植可能となり、小麦跡のWCS用稲栽培と比較すると20日以上の作期差となる(図2)。WCS用ムギに大麦を用いるとさらに早期収穫が可能であるが、湿潤な水田転換畑ではやや収量が不安定である(図表略)。
3. WCS用ムギ跡のWCS用稲は、移植時期が早いことと麦稈残さの影響を受けないことから、小麦跡WCS用稲とくらべて生育が安定し、「はまさり」で10a当たり3t程度の多収となる(図2
4. 現地のWCS用ムギサイレージ発酵品質は、7月の段階でVスコア80点以上の良好な発酵品質が確保され、夏季を越した9月でもその品質が維持されている(図3)。

[成果の活用面・留意点]
1. WCS用ムギの調製・保管は稲WCSのストックヤードを活用でき、WCS用稲とWCS用ムギを組み合わせることで、自給粗飼料を年間とおして安定的に供給できる。
2. WCS用ムギの調製・保管は稲WCSのストックヤードを活用でき、WCS用稲とWCS用ムギを組み合わせることで、自給粗飼料を年間とおして安定的に供給できる。
3. WCS用ムギ生産の有利性を考慮し、WCS用ムギに適する品種選定、多収栽培方法、収穫判断技術、調製技術、給与技術を研究する必要がある。

[具体的データ]
図1 現地(鈴鹿市、伊賀市)におけるWCS用ムギの収穫・調製作業体系

図2 現地(津市)におけるWCS用ムギを用いた水田2毛作体系の概要
図3 現地の小麦を原料としたWCS発酵品質
[その他]
研究課題名:大規模水田営農確立対策事業
予算区分:県単
研究期間:2009年度
研究担当者:神田幸英、川上拓、平岡啓司(畜産研究所)、川村淳也(畜産研究所)、前橋善浩(中央農業改良普及センター)、川原田直也(中央農業改良普及センター)

目次へ戻る