メタン発酵消化液由来の濃縮液肥を利用したトマトのかん水同時施肥栽培


[要約]
乳牛ふん尿および野菜残さを用いたメタン発酵消化液由来の濃縮液肥をハウス半促成栽培のトマトにかん水同時施肥することにより、慣行の液肥を施用した栽培と同等の品質・収量が得られる。

[キーワード]トマト、メタン発酵消化液、かん水同時施肥、半促成栽培

[担当]千葉農林総研セ・生産環境部・土壌環境研究室
[代表連絡先]電話:043-291-9990
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
バイオマスタウン構想の一環として、千葉県香取市に乳牛ふん尿および野菜残さのメタン発酵プラントが建設された。このプラントからは、メタン発酵残さとして消化液が発生する。消化液は露地畑における肥料としての利用が期待されているが、消化液を固液分離し、さらに逆浸透膜ろ過した濃縮液肥は臭いも少なく、かん水同時施肥による施設栽培においても利用が可能と考えられる。そこで、濃縮液肥をトマトにかん水同時施肥し、その実用性を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 濃縮液肥は、無機態窒素の大部分がアンモニア態であり、加里を3,310mg/L、塩素を1,630mg/Lと多く含んでいる。リン酸の含有量は19mg/Lと少ない(表1)。
2. 半促成栽培のトマトにかん水同時施肥を行う場合の養液量と窒素濃度は表2のとおりであり、窒素濃度は無機態窒素含有率から算出する。
 また、濃縮液肥はリン酸をほとんど含まないため、基肥として30kg/10aのリン酸を熔リンで施用する。1作当たりの液肥施用量は約13,000L/10aとなり、窒素施用量は17kg/10a、リン酸施用量は30kg/10a、加里施用量は43kg/10aとなる。
3. 濃縮液肥を半促成栽培(11〜12月定植、2〜6月収穫)のトマトにかん水同時施肥すると、慣行の液肥を施用した場合と窒素吸収量に差が認められない(表3)。
4. 果実の品質・収量は慣行の液肥を施用した栽培と明らかな差は認められず、収量は、千葉県の半促成栽培トマトにおける目標収量の1段当たり1t/10aを超えており、一般的な栽培と同等である(表4)。また、アンモニア態窒素の施用による発生が懸念される尻腐れ果はほとんど発生しない。

[成果の活用面・留意点]
1. 濃縮液肥の成分変動が大きい理由はメタン発酵の原材料となる乳牛ふんと野菜残さの混合比が変化するためである
2. 供試品種は「ハウス桃太郎」、供試土壌は表層腐植質黒ボク土で、ガラスハウス内で行った試験である。
3. 濃縮液肥は加里を多く含むため、土壌診断を行い、加里蓄積圃場での施用は控える。
4. 1作当たりの塩素の圃場への集積量は5kg/10a程度と推測される。トマトの収量に影響を及ぼす土壌の塩素残存量が100kg/10aとされている(千葉農試研報35:9〜19(1994))ことから、20作程度は濃縮液肥を用いた栽培が可能である。
5. 千葉県香取市のメタン発酵プラントにおける濃縮液肥の生産量は2009年現在、最大200L/dayである。

[具体的データ]
表1 メタン発酵消化液由来の液肥(濃縮液肥)の成分含量
表2 生育ステージ別の養液量と窒素濃度
表3 濃縮液肥の施用がトマトの窒素吸収量に及ぼす影響
表4 濃縮液肥の施用がトマトの品質収量に及ぼす影響
[その他]
研究課題名:バイオマスの地域特性に応じて、バイオマスのエネルギー変換とマテリアル変換とを効率的に組み合わせたモデルの構築・実証・評価
予算区分: 委託プロ(バイオマス)
研究期間:2006〜2008年度
研究担当者:岩佐博邦、山本二美、斉藤研二

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