分娩前の乳汁検査に基づく牛乳房炎の予防的治療効果の検討


[要約]
分娩前の乳汁性状が初乳様・水様の分房に泌乳期用抗生物質軟膏による治療を実施すると、分娩日の細菌分離率が低下する。また、水様分房では分娩後10日以内の臨床型乳房炎発症率が低下する傾向がある。

[キーワード]乳用牛、乳房炎、分娩前、乳汁性状

[担当]静岡畜研・安全生乳プロジェクトスタッフ
[代表連絡先]電話:0544-52-0146
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
分娩前の乳汁性状を粘度によって水様・初乳様・アメ状の3段階に分類すると、初乳様または水様の場合、粘度が高いアメ状と比較して細菌分離率が高く、乳房炎発症率が高くなる。そこで、分娩前の乳汁性状に基づいた乾乳期の治療試験を実施し、その有用性を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. 静岡県内の1酪農場で飼養されているホルスタイン種経産牛45頭を対象に、分娩14日前と分娩日に分房ごとの乳汁を採取し、分娩14日前の乳汁性状が初乳様の分房を治療群(n=29)と非治療群(n=29)、同様に水様分房についても治療群(n=25)と非治療群(n=10)に分け、細菌分離率と分娩後10日以内の臨床型乳房炎発症率を比較する。また、免疫グロブリン(IgG1、IgG2)、ラクトフェリン(Lf)、α1酸性糖蛋白(α1AG)の濃度を比較する。
2. 治療は分娩10日前に泌乳期用抗生物質軟膏1本1回注入とし、抗生物質の選択は分娩14日前の薬剤感受性検査結果に基づいて行う。
3. 分娩日の細菌分離率は、初乳様では非治療群45%に対し治療群では21%と低く(P<0.05)、水様でも非治療群60%に対して治療群では24%と低い(P<0.05)(図1)。
4. 水様分房の分娩後10日以内の臨床型乳房炎発症率は、非治療群40%に対し治療群では20%と低下する傾向を示す(図2)。
5. 初乳様、水様とも分娩14日前の分離菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)およびレンサ球菌(Str.)であり、治療群ではこれらの菌は分娩日に減少する(図3)。
6. 初乳様、水様ともに非治療群と治療群のIgG1、IgG2、Lf、α1AG濃度には差が認められない。

[成果の活用面・留意点]
1. 分娩前の乳汁性状が初乳様、水様の分房への抗生物質投与は分娩日の細菌分離率を低下させ、分娩後の乳房炎制御に活用できる。
2. 分娩前は乳房内感染が起こりやすい時期であるため、採材時及び治療時の感染予防に留意する。

[具体的データ]
図1 乳汁性状ごとの細菌分離率 図2 分娩10日以内の乳房炎発症率
図3 乳汁性状ごとの分離菌種及び分房数

(檀原麻実)

[その他]
研究課題名:乾乳期検査に基づく乳房炎治療法の確立
予算区分:県単
研究期間:2007〜2009年度
研究担当者:檀原麻実、赤松裕久、小柳寿文、板垣昌志(NOSAI山形)

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