体外受精および核移植由来過大子牛の一部には刷り込み調整領域KvDMR1のCpGメチル化異常が認められる
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[要約] |
体外受精や核移植技術を用いると過大子が発生しやすい。その症状がヒトのBeckwith-Wiedemann症候群と類似していることから、ウシにおける同遺伝子領域を解析し、KvDMR1のメチル化の低下が症状発現に関与する可能性を確認した。 |
[キーワード]刷り込み遺伝子、体外受精、核移植、DNAメチル化 |

[担当]石川畜総セ・技術開発部
[代表連絡先]電話:0767-28-2284
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]研究・参考 |
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[背景・ねらい] |
体外受精(IVF)や核移植(NT)等の生殖補助技術(ART)は、優良な家畜を生産するための有用な手段であるが、出生時体重の増加、臍帯や臓器の肥大等を主徴とする過大子症候群(LOS)が発生しやすく、経済的損失につながっている。本研究では、ARTによるLOSの発生を未然に防ぐための第一歩として、遺伝子レベルでの発症メカニズムの解明を行った。 |
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[成果の内容・特徴] |
1. |
LOSの症状はヒトのBeckwith-Wiedemann症候群(BWS)とよく類似していることから、BWS責任遺伝子(KvDMR1(Cdkn1c/Kcnq1ot1 )ならびにICR1(Igf2/H19 ))に注目し、ウシ29番染色体に存在するKvDMR1およびICR1のCpGメチル化および遺伝子発現の解析を行う。解析を行った領域を図1に示す。 |
2. |
LOSを示した2頭のIVF由来と7頭のNT由来子牛の主要臓器のKvDMR1におけるメチル化解析では、HpaII-MspI-McrBC PCR でIVF由来2頭中1頭、NT由来7頭中2頭はコントロールと比較してKcnq1ot1 のCpGメチル化が低下しており、バイサルファイトシークエンスからも同様の結果が認められる(図2)が、Cdkn1cのプロモーター領域はすべての検体でコントロールと同様のメチル化状態を示す。 |
3. |
遺伝子発現解析において、RT-PCRではKcnq1ot1 のCpGメチル化が低下している3頭のKcnq1ot1 の発現レベルはコントロールと比較して高く、Cdkn1cの発現レベルはコントロールよりも低い(図3)。また、Kcnq1ot1のCpGメチル化が低下している3頭のうち、NT由来子牛1頭およびと畜場出荷牛1頭のKcnq1ot1 に一塩基多型が認められ、RT-PCR産物のシークエンスでは、NT由来子牛は両アレルとも、と場出荷牛は片アレルのみ発現が認められる。ICR1のメチル化および発現解析では、Igf2 およびH19 はいずれもIVF由来、NT由来およびコントロールで差を認められない。 |
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[成果の活用面・留意点] |
1. |
本成果であるLOSを示したART由来子牛におけるKvDMR1のCpGメチル化異常の発見は、受精卵段階でLOSを診断できる可能性を示唆しており、受精卵品質評価の研究の参考として活用できる可能性がある。 |
2. |
受精卵では検査に供することのできるサンプルは非常に微量であるため、微量のDNAでも検査可能なメチル化解析の系を確立する必要がある。 |
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[具体的データ] |
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[その他] |
研究課題名:乳用牛における雌判別体外受精卵生産技術の開発試験
予算区分:県単
研究期間:2009〜2010年度
研究担当者:長井誠、堀登、林みち子、堀家慎一(金沢大学)
発表論文等:Hori N. et al. (2010) Anim. Reprod. Sci. 122(3-4) :303-312
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