東京都奥多摩地域におけるシカ食物資源量の把握


[要約]
粗蛋白質含量を基準としてシカのエサの量を推定したところ、エサの量は植生相により異なる。植物が多くても、エサが豊富とは限らない。エサが最も豊富なのは、夏季においては伐採跡地であり、冬期においては落葉広葉樹林および常緑広葉樹林である。

[キーワード]ニホンジカ、環境収容力、粗蛋白質

[担当]東京農総研・畜産技術科、東京農総研・緑化森林科
[代表連絡先]電話:0428-31-2171
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(草地)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
東京都奥多摩地域では、ニホンジカ(シカ)による森林の林床植生の食害で大規模な土砂流出が生じている。東京都はシカ保護管理計画を策定し、緊急に各種のシカ被害対策を講じている。保護管理計画を策定するために必要な、植生相とシカのエサの量(食物資源量)との関係は不明である。本研究では、シカが採食する可能性のある植物量を測定し、その量を栄養学的に解析することにより植生相における食物資源量を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 第2期東京都シカ保護管理計画で定める「人とシカが共生する区域」のうちの12地域(植生相:落葉広葉樹林、針葉樹林、防火帯、伐採跡地、常緑広葉樹林)を選定する。各地域において、夏季と冬季とにコドラート(1.5m×1.5m×1.5m)を6基ずつ設置する。設置30日後にコドラート内の植物をすべて採取する。採取した各植物すべてについて(例えば、枝1本、葉1枚、葉の付いた枝1本など)、乾物重量と粗蛋白質(CP)含量とをそれぞれ測定する。植物の乾物重量を植物資源量とする。
2. シカが摂取することの少ない植物(不嗜好性植物;ワラビ、マルバタケブキ、アセビ、オオバノイノモトソウ、オオバアサガラ)を除く植物のCP含量は、夏季では0.8〜25.5%の範囲に(図1)、冬季では0.8〜20.3%の範囲にある(図2)。栄養素含量を基準にして、植物資源量から食物資源量を推定できる1)。野生反芻動物が生存するにはCP含量5〜9%の植物を摂取する必要がある2)。この中間値を採り、不嗜好性植物を除いた植物のうちの平均CP含量が7%となる資源量を食物資源量とする。夏季の落葉広葉樹林(CP含量範囲2.7〜25.5%)においては、CP含量4.0〜25.5%の植物資源中のCP含量が丁度7%となり、この植物資源量が食物資源量となる(図1a)。
1) Hobbs NT, Swift DM. 1985. Journal of Wildlife Management 49, 814-822.
2) Robins TC. 2001. Pages 175-190 in Wildlife Feeding and Nutrition. 2nd ed. Academic Press, San Diego.
3. 植物資源量および食物資源量について、夏季および冬季それぞれを図3および図4に示す。夏季および冬季において、植物資源量および食物資源量のいずれについても植生相間に有意差を認める(P<0.05)。
4. .夏季の落葉広葉樹林と針葉樹林とにおいて、両植生相間での植物資源量の差は30g/m2であるが有意差を認めない。しかし、両植生相間の食物資源量の差は137g/m2であり有意差を認める。また、冬季の落葉広葉樹林と針葉樹林とにおいて、両植生相間の植物資源量の差は122g/m2であるが有意差を認めない。しかし、両植生相の食物資源量の差は201g/m2であり有意差を認める。これらのことから、夏季および冬季いずれにおいても、植物資源量が多くても、食物資源量が豊富とは限らない。

[成果の活用面・留意点]
許容シカ密度の目標値を季節別および植生相別に示すことができるので、本成果はシカ保護管理計画の策定に活用できる。

[具体的データ]
図1
図2
図3
図4

(東京農総研)

[その他]
研究課題名:シカと共存するための技術開発
予算区分:都単
研究期間:2008〜2010年度
研究担当者:田村哲生、中村健一、及川真里亜(東京農工大院)

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