減数分裂期相同組換え遺伝子(CmDMC1)の不活化による雄性不稔キクの作出


[要約]
減数分裂期特異的相同組換え遺伝子をRNAi技術によって不活化することにより、キク開花温度帯において花粉の成熟が完全に抑制された雄性不稔キクの作出が可能になる。

[キーワード]キク、遺伝子組換え、減数分裂期特異的相同組換え遺伝子、RNAi、雄性不稔

[担当]福井農試・育種部・園芸育種研究グループ
[代表連絡先]電話:0776-54-5100
[区分]関東東海北陸農業・花き
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
福井県では、農薬使用量と労働力を低減するため、遺伝子組換えによる耐虫性キクの作出に取り組んでいるが、組換え生物が他の生物に及ぼす影響、特に花粉による意図しない自然界への遺伝子拡散が憂慮されているため、花粉を不稔化する技術が必要となっている。そこで、花粉の減数分裂を抑えることをねらいとして、減数分裂期特異的相同組換えタンパク質をコードする遺伝子をRNA干渉(RNAi)技術により不活化して雄性不稔化を目指す。
*RNA干渉:相補的な配列の遺伝子断片を遺伝子組換えにより植物に導入し、目的とする遺伝子の発現を抑える方法。

[成果の内容・特徴]
1. キク由来減数分裂期特異的相同組換え遺伝子(CmDMC1)の582 bp断片をRNAi配列のトリガー断片として構築し(CmDMC1-RNAi)、遺伝子導入用バイナリーベクターに組み込み(図1)、Agrobacterium tumefaciensを介してキク品種「山手白」、「秀芳の力」、「幸福の鳥」等への導入により、原品種(非組換え体)に比べて成熟花粉が少ない、あるいは全く形成されない遺伝子組換え体が得られる(表1)。
2. CmDMC1-RNAi配列の発現が強い系統では、キク開花温度帯(10〜35℃)において成熟花粉が全く形成されず、原品種およびCmDMC1-RNAi配列の発現が弱い系統では、成熟花粉が形成される(図2表2)。
3. CmDMC1-RNAi配列の発現により、10℃及び20℃以上では花粉は全く形成されない。15℃では第1減数分裂期前期で生育が止まった稔性のない四分子期花粉と未熟花粉が観察される(表2)。

[成果の活用面・留意点]
1. A. tumefaciensに感受性であり、カルスからの再分化能を持つキク品種において、この技術を活用することで、雄性不稔性を持った遺伝子組換えキクが得られる。
2. CmDMC1-RNAi配列と有用遺伝子を同一T-DNA上に配置し、A. tumefaciens を介してキクに導入することで、花粉による遺伝子拡散のない遺伝子組換えキクが作出できる。
3. CmDMC1-RNAi配列を導入した遺伝子組換えキクでは、草姿、開花期等の形質に顕著な異常は認められない(データ省略)。
4. 雄性不稔に関して、日長等の環境要因とも絡めた検証が必要である。

[具体的データ]

(福井農試 篠山治恵)

[その他]
研究課題名:花粉による遺伝子拡散のない耐虫性・雄性不稔キクの開発
予算区分:新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業
研究期間:2004〜2008年度
研究担当者:篠山治恵、鎌田博(筑波大学)、江面浩(筑波大学)、間竜太郎(花き研)、山口博康(花き研)市川裕章(生物研)、大門優(福井県経済連)、野村幸雄、中瀬敢介、西端善丸
発表論文等:篠山ら「稔性抑制キク科植物の作製方法」 特開2010-187597

目次へ戻る