茶園における寄生蜂の生物多様性と環境保全型農法を評価するための指標生物


[要約]
茶園には19科以上の多様な寄生蜂が生息し、これらの中ではトビコバチ科やツヤコバチ科が優占する。チビトビコバチ、サルメンツヤコバチ、ナナセツトビコバチ、キイロタマゴバチ、アザミウマタマゴバチが環境保全型農法を評価する指標生物の候補である。

[キーワード]生物多様性、寄生蜂、指標生物、チビトビコバチ、チャ

[担当]静岡農技研(茶研セ)・生産環境科
[代表連絡先]電話:v
[区分]関東東海北陸農業・茶業
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
近年、茶園においても生物多様性と環境保全型農法を評価するための指標生物の選定が求められている。茶園には多種多様な寄生蜂が多数生息することが知られているが、種構成や発生実態については不明な点が多い。そこで、農薬による防除強度が異なる茶園において、黄色粘着トラップを用いて寄生蜂群集の発生実態や主要種の発生消長等を明らかにし、指標生物の候補種を選抜する。

[成果の内容・特徴]
1. 研究センター内(静岡県菊川市倉沢)に設置した無農薬、減農薬および慣行防除区では、いずれの区でも19科の寄生蜂が発生し、トビコバチ科が最も多い。次に個体数が多いのは、無農薬区ではタマゴコバチ科、減農薬区と慣行防除区ではツヤコバチ科が多い(図1)。
2. 研究センター内圃場において、慣行防除区に比べて無農薬または減農薬区で個体数の多い種は、チビトビコバチ、サルメンツヤコバチ、ナナセツトビコバチ、キイロタマゴバチ、およびアザミウマタマゴバチである(表1)。
3. 現地茶園(静岡県牧之原市布引原)では、13〜16科の寄生蜂が発生する。出現科構成は研究センター内と類似し、トビコバチ科が最も多く、次いでツヤコバチ科が多い(図2)。
4. 現地茶園では、慣行防除区に比べて交信攪乱区(トートリルア剤設置)で個体数が多い種類は、チビトビコバチ、サルメンツヤコバチ、ナナセツトビコバチ、およびアザミウマタマゴバチである(表1)。
5. 以上より、茶園における環境保全型農法を評価する指標生物候補として、チビトビコバチ、サルメンツヤコバチ、ナナセツトビコバチ、キイロタマゴバチ、およびアザミウマタマゴバチを選抜する。

[成果の活用面・留意点]
1. 黄色粘着トラップ(10×10cm両面、各圃場3枚)は、摘採面下約10cmの樹冠内部に吊した。
2. 研究センター内の減農薬区、慣行防除区における殺虫剤の平均年間散布回数は、それぞれ4.0、10.5回、現地茶園の交信攪乱区1、同2、慣行防除区における回数は、それぞれ8.0、8.5、9.5回である。
3. 寄生蜂の科の分類は、最新の分類基準では変更される場合がある。
4. 寄生蜂の密度は、寄主である害虫密度等の影響も受ける。
5. 無農薬茶園では、いわゆるマイナー害虫の発生に伴って一般管理茶園ではみられない寄生蜂も発生するが、無農薬園のみで確認される種類は指標生物候補としない。
6. 静岡県菊川市、同牧之原市における調査結果である。

[具体的データ]
図1 研究センター内(菊川市倉沢)茶園における黄色粘着トラップに捕獲された寄生蜂類の科構成(2008年と2009年の合計値の比率)
図2 現地茶園(牧之原市布引原)における黄色粘着トラップに捕獲された寄生蜂類の科構成(2008年と2009年の合計値の比率)。交信攪乱区にはトートリルア剤を設置
表1 研究センター内茶園と現地茶園(牧之原市布引原)における指標生物候補の黄色トラップによる捕獲数(2008年と2009年におけるトラップ各3枚の合計値)

(小澤朗人)

[その他]
研究課題名:土着天敵類の環境保全型農法と関連した生物多様性の指標生物の選抜
予算区分:委託プロ(生物多様性)
研究期間:2008〜2009年度
研究担当者:小澤朗人、内山 徹

目次へ戻る