吟醸酒用途の酒造好適米新品種「愛知酒117号」


[要約]
「愛知酒117号」は、「若水」と比較して、心白が小さく、線状心白、点状心白の割合が高く、高度精白が可能である。醸造適性に優れ、吟醸酒の官能評価が高い。熟期は極晩生で、「若水」が持たない縞葉枯病抵抗性を持つ。

[キーワード]イネ、酒造好適米、愛知酒117号、高度精白、極晩生、縞葉枯病抵抗性

[担当]愛知農総試・作物研究部・作物グループ
[代表連絡先]電話:0561-62-0085
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
愛知県内の酒造好適米品種の作付は、1983年に奨励品種に採用された「若水」が、1995年には289haまで作付を伸ばしたが、近年、作付面積は大幅に減少している。
 県内の酒米生産地では、日本酒需要低迷を打破するため、生産者と実需者(酒造メーカー)が連携し、地場産米を原料とした吟醸酒、大吟醸酒等、付加価値を付けた新酒により新たな需要の喚起を目指した取り組みが動き出している。しかし、現奨励品種の「若水」は高度精白が困難で吟醸酒用としては不適である。このため、「山田錦」に近い高度精白適性を持ち、栽培安定性の高い品種を育成する。

[成果の内容・特徴]
1. 001年に「山田錦」を母とし、育酒1764(若水の縞葉枯病抵抗性付与系統)を父として交配を行い、その後、系統育種法に従い選抜固定を進めた。2007年F8世代に「あ系酒854」の系統番号を付し、2008年F9世代に「愛知酒117号」の系統名を付与した。奨励品種決定試験に供試し、本県平坦地域での適応性、醸造適性等の検討を重ね有望と判断した。
2. 出穂期、成熟期は「若水」より遅く、温暖地東部の熟期区分では“極晩生”に属する(表1)。
3. 稈長は「若水」より10cm程度長く、穂長は「若水」より早植栽培で約1cm、普通 期栽培で約2cm長い。穂数は「若水」より少ない。草型は“穂重型”に属する(表1)。
4. いもち病真性抵抗性遺伝子型はPiiと推定され、葉いもちほ場抵抗性は“弱”である。縞葉枯病抵抗性は、抵抗性遺伝子Stvb-i を持ち、“抵抗性”である。白葉枯病抵抗性は“中”で、「若水」より強い(表1)。
5. 収量は「若水」と比べて、早植栽培で同等、普通期栽培では多収である(表1)。
6. 玄米千粒重は「若水」と比べて早植栽培で同等、普通期栽培ではやや重い。玄米の外観品質は「若水」と比べて、普通期栽培でやや勝る(表1)。
7. 心白発現率は「若水」よりやや低く、心白率は低い(表1)。また、高度精白に適するとされる線状心白、点状心白の割合が「若水」に比べて高い(表2)。
8. 精米時の砕米率は「若水」より低く、タンパク質含量は「若水」と同等とみられる(表3)。
9. 吟醸酒の官能評価は、「若水」に比べて、新酒、熟成酒ともに香りが豊かで、総合評価は勝っている(表4)。

[成果の活用面・留意点]
1. 適応地帯は、愛知県平たん部、普及見込み面積は、100ha。
2. 愛知県における作型は、早植栽培(5月下旬)〜普通期栽培(6月上中旬)に適応できるが、粒大、品質等の面から、普通期栽培が望ましい。
3. 耐倒伏性はやや強であるが、タンパク質含量を高めないために、適正な肥培管理を行う。

[具体的データ]
表1 「愛知酒117号」の特性概要
表2 心白型歩合 表3 原料米分析値 表4 吟醸酒の官能評価

(加藤 満)

[その他]
研究課題名:主要農作物の優良品種の育成・選定
予算区分:県単
研究期間:2001〜2009年度
研究担当者等: 工藤悟、加藤満、杉浦直樹、辻孝子、中村充、城田雅毅、加藤恭宏、船生岳人、加藤博美、澤田恭彦、鈴木敏夫、釋一郎、井上正勝、山本晃司(産技研)、伊藤彰敏(産技研)

発表論文等:2010年12月品種登録申請

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