中生の多収・良食味・縞葉枯病抵抗性水稲新品種候補系統「関東238号」


[要約]
水稲「関東238号」は温暖地東部での熟期が中生の晩に属する粳種である。縞葉枯病に抵抗性で晩植適性があり、湛水直播でも栽培が可能である。食味は「コシヒカリ」に近い良食味で、「月の光」よりも収量性が明らかに高い。

[キーワード]イネ、縞葉枯病抵抗性、多収、良食味、直播適性、中生

[担当]作物研・低コスト稲育種研究チーム、稲マーカー育種研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8536
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
温暖地においては、低コスト栽培に適する湛水直播栽培、麦跡の晩植栽培用として一定レベルの食味を有する市場性の高い品種が求められている。そのため、栽培特性の優れた中生の縞葉枯病抵抗性多収品種の開発を行う。

[成果の内容・特徴]
1. 「関東238号」は「アケノホシ」に由来し多収で食味のやや良い関東199号と縞葉枯病抵抗性で良食味の関東209号(後のさとじまん)の交雑後代より育成された粳種の系統である。
2. 育成地における出穂期は「月の光」よりもやや早い“中生の中”、成熟期は「月の光」と同程度で“中生の晩”熟期に属する(表1)。
3. 稈長は「月の光」よりやや短い。穂数は「月の光」と同程度で、草型は“偏穂数型”である(表1)。
4. 玄米重は「月の光」に対して早植・標肥で24%、早植・多肥で15%多収であり、晩植栽培においても「月の光」に対して18%多収である(表1)。また、平成21年度の奨励品種決定調査においては、対照品種に比較して平均で9%多収であった(図1)。
5. 湛水直播に適性があり、耐倒伏性は「月の光」並の“強”である(表1表2)。
6. 穂発芽性は、「月の光」よりやや発芽しにくい“やや難”である(表1)。
7. いもち病真性抵抗性遺伝子型は“+”と推定される。圃場抵抗性は葉いもちが“中”、穂いもちが“弱”である。白葉枯病抵抗性は“やや弱”であり、縞葉枯病には“抵抗性”である(表1)。
8. 玄米の外観品質は「月の光」よりやや劣る“中の中”で、高温登熟性は“中”である(表1)。
9. 炊飯米の食味は、「月の光」より明らかに優り、「コシヒカリ」に近い極良食味である(図2)。

[成果の活用面・留意点]
1. 多収で食味も良いため、業務用などの用途が考えられる。
2. 多肥で多収となるが穂いもちに弱いため、極端な多肥は避け、いもち病の防除を行う。
3. 白葉枯病に弱いため、常発地での栽培は避ける。

[具体的データ]

(前田英郎)

[その他]
研究課題名:直播適性に優れ、実需者ニーズに対応した低コスト業務用水稲品種の育成
課題ID:311a
予算区分:委託プロ(加工プロ4系)
研究期間:2001〜2010年度
研究担当者:春原嘉弘、根本博、加藤浩、平林秀介、竹内善信、佐藤宏之、前田英郎、常松浩史、田中淳一、池ヶ谷智仁、安東郁男、太田久稔、出田収、石井卓朗、井辺時雄、平山正賢

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