オオムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子rym3の選抜に有効なDNAマーカー


[要約]
現在二条大麦で最も利用されているオオムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子rym3 の選抜に有効なCAPSマーカーを開発した。有効と考えられるk09554-AvaIとrym3 との組換価は0〜0.5%で、二条大麦主要品種で利用可能であり、抵抗性遺伝子の集積に活用できる。

[キーワード]大麦、育種、DNAマーカー、縞萎縮病抵抗性、遺伝子集積

[担当]栃木農試・栃木分場・二条品質指定・二条育種指定
[代表連絡先]電話:0282-27-2711
[区分]作物・冬作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]研究・普及

[背景・ねらい]
ビール麦育種において、収量と品質の大幅な低下を招く大麦縞萎縮病に対する抵抗性遺伝子の導入は常に最重要課題である。DNAマーカーは抵抗性遺伝子rymの集積に必須であるが、既存のrym3連鎖マーカーは結果の再現性や選抜効率の点で劣り、実用的でなかった。そこで、抵抗性遺伝子集積系統を育成するため、育種に実用的なDNAマーカーを開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 開発したrym3 連鎖マーカーの利用条件は以下のとおりである。
@k09554-AvaI: F (TGCCTGGGGTTGAAGAATAC), R  (CCGCGCTTAAGTGAAAATGT)
   (プライマー配列はk09554 (Sato et al., 2009)による)
ATBr3-2: F (TCTTGCGAAAAGTGAAAGCA), R  (GTCCACCATCGAAGAACGAT)
 PCR条件: < 94℃4分-(94℃30秒-60℃30秒-72℃30秒)×35サイクル-72℃5分>
   DNAポリメラーゼとして、Blend Taq® -Plus-(TOYOBO)を用いた。
 制限酵素処理: k09554-AvaI: AvaI (イシュクシラズ型: 365bp, ニシノチカラ型: 160+205bp)
   TBr3-2: EcoRV (イシュクシラズ型: 529bp, ニシノチカラ型: 162+374bp)
2. k09554-AvaIとrym3 は0〜0.5%、TBr3-2は1.4%の組換え価で連鎖する(表1図1)。
3. k09554-AvaIは、ビール大麦をはじめ二条大麦主要品種で利用できる(表2)。
4. 本マーカーはCAPS法による共優性マーカーであり、既報のRAPDマーカーと比べ、ホモ・ヘテロが判別可能であり、結果の再現性において優れており、育種現場におけるMAS(マーカー利用選抜)に実用できる。

[成果の活用面・留意点]
1. ビール大麦をはじめ二条大麦品種に対するrym3の導入に有用である。
2. 裸麦や六条大麦など日本在来種を背景とする品種では、rym3品種との間でマーカー多型が得られない場合があるため、事前に確認が必要である。
3. k09554-AvaIはrym3連鎖マーカーであるため、組み換えを生じる可能性に留意する必要がある。また、TBr3-2で多型が得られる組合せでは、k09554-AvaIとの併用によってrym3のより確実な導入が可能である。
4. 本マーカーをrym1 (Okadaら, 2003)やrym5 (Pellioら, 2005)などの抵抗性遺伝子選抜マーカーと併用することで複数の抵抗性遺伝子の効果的な集積が可能となる。●

[具体的データ]
表1.rym3解析系統SSD-F8のオオムギ縞萎縮病III型に対する抵抗性反応とマーカー多型
表2.主要品種のrym3連鎖マーカー多型 図1.大麦5H染色体上におけるrym3とマーカーの連鎖地図 

(栃木県農業試験場)

[その他]
研究課題名:オオムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子rym3 の選抜に有効なDNAマーカー
予算区分:指定試験
研究期間:2007〜2010年度
研究担当者:春山直人、大関美香、五月女敏範、山敏之、沖山毅、山口昌宏

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