イネの個葉光合成能および関連形質に関与するQTL


[要約]
イネの第4染色体RM5503 と RM17525の間の1798-kbの染色体領域にインディカ品種の高い個葉光合成能に関与するQTLが存在する。

[キーワード]イネ、個葉光合成能、SPAD値、QTL、インディカ品種

[担当]作物研・稲収量性研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8952
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
イネの収量性の向上にはシンク容量に加えて光合成能などのソース能力の向上が必要である。多収インディカ品種はジャポニカ品種に比べて高い個葉光合成能力をもつことが知られるが、その遺伝要因は明らかではない。そこでインディカ品種「ハバタキ」とジャポニカ品種「ササニシキ」の染色体置換系統群などを用いて「ハバタキ」がもつ高い光合成能に関与する量的形質遺伝子座(QTL)と関連する形質を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1.  「ハバタキ」は「ササニシキ」より高い個葉光合成速度を示し、これには高い葉緑素値(SPAD)、低い比葉面積(SLA)が寄与する(図1)。「ササニシキ」の遺伝背景に「ハバタキ」の染色体断片を置換した染色体断片置換系統群のうち、第4染色体の置換断片領域をもつSL414で「ササニシキ」より個葉光合成速度が高い。SL414はSPADが高く、SLAが小さいことより、この領域にSPADとSLAを通してインディカ型で光合成能を高めるQTLが存在する。
2.  SL414がもつ第4染色体置換領域の組換え固定系統を用いてファインマッピングを行うと、SPADとSLAのQTLはともにRM5503 と RM17525の間の1798-kbの領域に絞り込まれる。このことよりこの領域にはインディカ品種でSPADと葉の厚さを高めるQTLが存在し、これらがインディカ品種の高い個葉光合成能に寄与していると推定される。

[成果の活用面・留意点]
1. イネの光合成能の品種間差異の要因解明や光合成能向上のための育種に参考となる。
2. 個葉単位面積当たりの光合成速度の結果であり、個体当たりの光合成能や収量性への効果は検証が必要である。

[具体的データ]
図1.ササニシキ、ハバタキ、SL414の出穂期における止葉のSPAD
図2.第4染色体の組み換え固定系統を用いたSPAD、SLAの領域の絞り込みの結果

(高井俊之、近藤始彦)

[その他]
研究課題名: イネゲノム解析に基づく収量形成生理の解明と育種素材の開発
中課題整理番号: 221-c
予算区分: 委託プロ(DNAマーカー、新農業展開
研究期間: 2006〜2010年度
研究担当者: 高井俊之、近藤始彦、荒井裕見子、石丸努、吉永悟志、矢野昌裕(生物研)、山本敏央(生物研)
発表論文等: Takai T. et al. (2010) Rice 3:172-180.

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