サツマイモの肉質にはでん粉含有率に加え、水分動態や細胞形態が関与する


[要約]
蒸したサツマイモの肉質の違いにはでん粉含有率に加えて水分動態や組織・細胞形態の相違が関わっている。でん粉が多く、肉質が粉質傾向のいもでは粘質傾向のいもと異なり、蒸した後も細胞の形が維持され、水分子が糊化でん粉ゲルとともに細胞内に留まる。

[キーワード]サツマイモ、肉質、でん粉含有率、水分動態、組織・細胞形態

[担当]作物研・食用サツマイモサブチーム
[代表連絡先]電話:029-838-8500
[区分]作物、関東東海北陸・関東東海・水田作畑作、食品
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
サツマイモの肉質は、加熱調理後にホクホクした食感をもたらす粉質と、ねっとりした食感になる粘質とに大別され、その違いは食味や加工適性に大きく影響する。良食味で加工適性に優れたサツマイモ品種を育成するうえで肉質調査が欠かせないが、従来は主に相対的官能評価によっており、年次間変動や評価者の主観の違いなどの影響が無視できなかった。そこで、肉質の客観的な絶対評価法の確立や変動要因の解明に資するために、塊根のでん粉等成分の特性および組織形態などと肉質との関係を明らかにすることを目的とした。

[成果の内容・特徴]
1. 蒸したサツマイモの肉質と生いものでん粉含有率との間には相関(r=-0.64, p<0.01)があり、でん粉含有率が高いほど粉質傾向になる(図1)。
2. 生いも組織における水分の動態には肉質によって大きな違いがないが、蒸しいも組織においては、粉質ないもは粘質ないもに比べて運動性の高い水分子が少ない(図2)。
3. 生いもの組織・細胞形態に関しては、粘質な品種の塊根は粉質な品種に比べてでん粉粒が少なく、細胞の大きさも小さい傾向がある。一方、蒸しいも組織では肉質が粉質〜中間質な品種の塊根では個々の細胞がその内部に糊化したでん粉ゲルを留めたまま形を保っているのに対して、粘質〜やや粘質な肉質の品種では、細胞壁が崩壊し、隣接した複数の細胞が細胞外に流出したでん粉ゲルと一体化した構造が観察される(図3)。
4. アミロース含有率 (図3)や糊化特性パラメータなどでん粉自体の特性と肉質との間に一定の関係はない。

[成果の活用面・留意点]
1. 加熱調理後の肉質の違いに関与するサツマイモの成分やその特性が明らかとなり、貯蔵条件や栽培環境の変動に伴う肉質変化の原因解明や制御技術の開発が期待される。
2. β-アミラーゼ活性の極めて低い品種(「オキコガネ」など)では塊根の肉質とでん粉含有率との関係が異なる。

[具体的データ]
図1 生いものでん粉含有率と蒸しいもの肉質との関係 図2 肉質の異なる品種の生および蒸したいものMRI画像
図3肉質の異なる品種の生および蒸したいもの組織・細胞の微細構造

(中村善行)

[その他]
研究課題名:良食味で加工適性に優れた甘しょ品種の育成と新たな有用特性を持つ甘しょ育種素材・系統の開発
中課題整理番号:311e
予算区分:基盤
研究期間:2006〜2009年度

研究担当者:中村善行、藏之内利和、高田明子、石田信昭、鴻田一絵(茨城大)、岩澤紀生(茨城大)、松田智明(茨城大)、熊谷亨
発表論文等:中村ら (2007) 日本作物学会紀事、76(4):576-585.
中村ら (2010) 日本作物学会紀事、79(3):284-295.



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