ダイズ播種後の湛水による出芽不良には卵菌類が関与する


[要約]
ダイズ播種後の湛水で起こる出芽不良には、Pythium 属菌やPhytophthora 属菌の卵菌類の感染が関与している。ダイズは48時間の湛水条件下でも卵菌類の接種がなければは出芽するが、接種すると湛水期間が長くなるにしたがって出芽率が低下する。

[キーワード]ダイズ、出芽不良、湛水、卵菌類、マンゼブ・メタラキシル

[担当]中央農研・大豆生産安定研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8532
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)、水田作畑作、共通基盤・病害虫(病害)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
ダイズの播種時期が梅雨と重なる関東地方以西では出芽不良が問題になる。従来、出芽不良の原因として急速な吸水による子実の破壊、低酸素条件下における生理障害、クラスト発生による土壌の硬化などが考えられてきた。一方、出芽不良になった種子では軟化腐敗症状や種子周囲に泥の堅固な付着が認められるなど、微生物の関与を示唆する現象も認められ、北海道ではPythium spinosumやP. ultimum var. ultimum によるダイズ苗立枯病が報告されている。そこで、出芽不良に対する微生物の関与を明らかにするとともに、その種類と病原性を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 播種後に湛水処理すると、高圧蒸気滅菌した土壌に播種したダイズは出芽率が低下しないが、滅菌しなかった土壌に播種したダイズは出芽率が低下する(図1)。異なる微生物群に効果のある殺菌剤を種子処理したダイズを圃場に播種して湛水処理すると、卵菌類に効果のあるマンゼブ・メタラキシル水和剤を種子処理したものだけが出芽率を有意に向上させる(表1)。
2. 非滅菌土壌にダイズを播種後、湛水処理を行い、腐敗した種子から乳酸酸性素寒天培地とPythium ・Phythophthora選択分離培地を用いて菌の分離を行うと、毛かび類、Trichoderm a属菌、Geotrichum 様菌、擬頭状に分生胞子を形成する菌類および卵菌類などの微生物が分離される。これらの菌をダイズ種子に付着させて播種し、湛水処理すると、卵菌類を接種した場合にのみ出芽率の低下が認められ(図2)、播種後の湛水による出芽不良には卵菌類の感染が関与している。
3. 病原性が認められた卵菌類は未記載のPythium 属菌とPhytophthora 属菌であると推定される。
4. 滅菌土にダイズを播種して湛水処理すると、菌を接種しない場合には48時間の湛水処理でも良好に出芽する。分離された卵菌類をダイズ種子に付着させて播種すると、湛水処理しない場合には良好に出芽するが、湛水期間が長くなるにつれて出芽率が低下する(図3)。このことから、湛水期間が長引くと卵菌類の感染による出芽不良が多くなる。

[成果の活用面・留意点]
1. ダイズに病原性を示した卵菌類(Pythium 属菌ならびにPhytophthora 属菌)は、種の同定には至っていない。
2. 本研究で菌の分離に用いた土壌はつくば市内の水田転換畑圃場から採取したもので、用いたダイズ品種は「タチナガハ」である。この圃場では「タチナガハ」を侵すことができるダイズ茎疫病菌の発生は認められなかった。
3. フルトラニル水和剤以外の殺菌剤はダイズの種子処理剤としては未登録である。

[具体的データ]
表1.異なる殺菌剤を処理した種子を播種して湛水処理したダイズの出芽率
図1 非滅菌土壌と滅菌土壌に播種して湛水処理したダイズの出芽状況 図3 卵菌類の接種ならびに湛水期間がダイズの 出芽率に及ぼす影響
図2 腐敗種子から分離された糸状菌がダイズの出芽率に及ぼす影響

(加藤雅康)

[その他]
研究課題名:大豆生産不安定要因の解明とその対策技術の確立
中課題整理番号:211c
予算区分:基盤、委託プロ(加工プロ)
研究期間:2006〜2010年度
研究担当者:加藤雅康、国立卓生、濱口秀生、田澤純子、前川富也、島田信二、南田佳祐(大阪府大院)、東條元昭(大阪府大院)

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