黒ボク土における有機物連用が水稲の窒素吸収と収量構成要素に及ぼす影響


[要約]
黒ボク土水田において化学肥料単用に比べ、籾殻牛ふん堆肥を連用すると幼穂形成期までの窒素吸収量が増加することで穂数が増加し、稲わらを連用すると出穂期前の窒素吸収量が増加することで1穂籾数が増加する。結果、総籾数および精玄米重が増加する。

[キーワード]黒ボク土水田、有機物連用、稲わら、堆肥、収量構成要素、窒素吸収量

[担当]栃木農試・環境技術部・土壌作物栄養研究室
[代表連絡先]電話:029-665-7072
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
水稲における土づくりの一手段として有機物の施用が推奨されているが、有機物施用による効果は、有機物の種類、土壌類型で異なり、また短期間では施用の効果が表れにくい。このため、長期的な視点で有機物施用の効果を検討する必要がある。そこで、栃木県に広く分布する黒ボク土水田の有機物20年連用圃場において、その後の5年間の連用継続が土壌理化学性、水稲の生育および収量への影響を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 1. 化学肥料単用と比べて籾殻牛ふん堆肥連用ではT−C、T−N、可給態リン酸、交換性カリ、窒素無機化量が増加し、稲わら連用では、交換性カリ、窒素無機化量のみが増加する (表1)。物理性については有機物連用による影響は判然としない(データ省略)。
2. 2. 籾殻牛ふん堆肥の連用は化学肥料単用と比べて、移植1か月後から幼穂形成期に水稲の窒素吸収量を増加させ、幼穂形成期以降は化学肥料単用と同程度の窒素を吸収することで(図1)、穂数が増加し、1穂籾数は同程度になり、総籾数が増加する(表2)。
3. 3. 稲わらの連用は化学肥料単用に比べて、最高分げつ期までの窒素吸収量は同程度になるため有効茎数は同程度となり、穂数が同程度確保され、さらに幼穂形成期から出穂期までの窒素吸収量が多いので(図1)、1穂あたりの窒素吸収量の増加につながり、1穂籾数、総籾数が増加する(表2)。

[成果の活用面・留意点]
1. 可給態窒素15〜20mg/100g程度の黒ボク土でコシヒカリを早植え栽培し、20年間有機物連用した圃場で、5年間連用継続した結果である。
2. 化学肥料の慣行施肥に加えて、堆肥(籾殻牛ふん堆肥)を春の代かき前に、稲わらを秋に毎年施用し、栽培後の稲わらは稲わら区のみ窒素成分を計算して施用した。
3. 堆肥連用は1984〜1997年まで稲わら堆肥を1500kg/10a(窒素9.9kg/10a)、1998〜2008年まで籾殻牛ふん堆肥784kg/10a(窒素9.0kg/10a)、稲わら連用は1984~1997年まで稲わら500kg/10a(窒素2.9kg/10a)、1998〜2008年まで964kg/10a(窒素4kg/10a)施用した結果である。
4. 堆肥連用の影響は2002年(連用18年後)以降、稲わらの連用の影響は2005年(連用22年)以降に安定して効果が表れた。
5. 2004年の気温は平年値と比べ5月が高く、6、7月が特に高かった。

[具体的データ]
図1 有機物の連用が水稲時期別窒素吸収量と茎数に及ぼす影響(2004〜2008年)

(吉澤 比英子)

[その他]
研究課題名:水稲単作黒ボク土水田における有機物連用の効果
予算区分:国補(農耕地土壌保全対策事業)、県単
研究期間:1984〜2008年
研究担当者:吉澤比英子、高沢(高間)由美、常見譲史、大島正稔
発表論文等:栃木農試研報66(印刷中)

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