ナミハダニの土着天敵ミヤコカブリダニを誘引する植物由来の揮発性成分


[要約]
ナミハダニの土着天敵であるミヤコカブリダニは、ハダニの被害を受けた作物が放出する匂い物質に強く誘引される。匂い物質に含まれる誘引成分のうち、サリチル酸メチルはミヤコカブリダニに対して強い誘引活性を示し、天敵行動制御物質としてハダニの生物的防除に利用できる可能性がある。

[キーワード]ミヤコカブリダニ、ナミハダニ、天敵誘引成分、サリチル酸メチル

[担当]中央農研・総合的害虫管理研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8078
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(虫害)、共通基盤・病害虫(虫害)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
野菜や果樹等の重要害虫であるナミハダニに対して、土着天敵であるミヤコカブリダニを用いた生物的防除が日本各地で進められている。ミヤコカブリダニによる防除効果をさらに高めるには、彼らがナミハダニをどのように探索するのかを理解する必要がある。
  チリカブリダニなど多くのカブリダニ種では、ハダニの被害を受けた作物が放出する特異的な匂い物質に誘引されることが知られている。匂い物質を構成する揮発成分の種類や濃度は害虫や作物の種類で異なるが、匂い物質のどの構成成分がカブリダニを誘引し、餌探索の指標として利用されているかは良く分かっていない。そこで、ナミハダニの被害を受けたリママメ由来の匂い物質を対象に、ミヤコカブリダニを強く誘引する揮発成分を明らかにし、生態解明に資する。

[成果の内容・特徴]
1. ミヤコカブリダニ雌成虫は、生物検定用のオルファクトメーター内において、未被害のリママメ葉の匂いと空気とを区別しない(図1)。すなわち、未被害葉の匂いには誘引活性は認められない。一方、未被害葉とナミハダニ被害葉の両者を提示した場合には、被害葉から放出される匂い物質に対して強く誘引される(図1)。被害葉由来の匂い物質はサリチル酸メチルやリナロール、青葉アセテートなどの揮発成分で構成されている(図2)。これら3種類の揮発成分は未被害葉からは検出されない。
2. 構成成分の合成品と空気(溶媒エーテル10μl)を提示した場合、サリチル酸メチルやリナロールに誘引される(溶媒10μl中に各1mg含有、被害葉からの濃度と同程度になるよう成分放出濃度を調節済み、図3)。青葉アセテート(溶媒10μl中に各10μg含有、被害葉からの濃度と同程度になるよう調節済み)にも弱い誘引活性がある。これらの揮発成分は、餌探索を行う際の指標のひとつとして利用されていると考えられる。
3. サリチル酸メチル合成品とナミハダニ被害葉とを同時に提示した場合、ミヤコカブリダニ雌成虫は両者を区別しない(図4)。すなわち、サリチル酸メチルには被害葉の匂い物質と同程度の強い誘引活性があると考えられる。一方、ミヤコカブリダニはリナロール合成品や青葉アセテート合成品よりも被害葉に誘引されることから、これらの成分の誘引活性は匂い物質の誘引活性よりも弱いと考えられる。

[成果の活用面・留意点]
1. サリチル酸メチルはミヤコカブリダニを誘引・定着させるための天敵行動制御物質としてナミハダニの生物的防除に利用できる可能性がある。
2. 匂い物質中の構成成分の種類や濃度はハダニや作物の組み合わせで異なるため、上記の3成分以外にもミヤコカブリダニを誘引する成分が存在する可能性がある。
3. サリチル酸メチルの合成成分を天敵行動制御物質として野外で利用するためには、合成成分を安定的かつ持続的に放出させる技術の開発が必要となる。

[具体的データ]
図1葉の匂い物質に対する誘引反応 図2 葉の匂い物質中の主要成分
図3 匂いの構成成分に対する誘引反応 図4 匂いの構成成分と被害葉の誘引性の比較

(下田武志)

[その他]
研究課題名:天敵の害虫制御能力の解析と増強法の開発
中課題整理番号:214f
予算区分:科研費
研究期間:2007〜2009年度
研究担当者:下田武志

発表論文等:1) Shimoda T. et al. 2005. J. Chem. Ecol. 31: 2019-2032
2) Shimoda T. et al. 2010. Exp. Appl. Acarol. 50: 9-22



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