日本産昆虫病原性線虫Steinernema litoraleのヤガ類幼虫に対する殺虫活性


[要約]
Steinernema litoraleは7℃から25℃で、カブラヤガおよびハスモンヨトウ老齢幼虫に対して殺虫活性を示し、特に、10℃以下の低温環境下では市販の線虫製剤より活性が高い。

[キーワード]昆虫病原性線虫、Steinernema litorale、ヤガ類幼虫、殺虫活性、低温環境

[担当]中央農研・総合的害虫管理研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8839
[区分]関東東海北陸農業・病害虫(虫害)、共通基盤・病害虫(虫害)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
昆虫病原性線虫は農業害虫の天敵として有望視され、日本からSteinernema kushidai など10種以上の昆虫病原性線虫類の生息が報告されているが、現在は輸入線虫製剤が農薬登録されているのみである。本線虫類の殺虫活性は温度条件により大きく左右され、現在市販されている線虫製剤の効果は、15℃以下の低温や30℃以上の高温条件で低下することが知られている。また、環境保全型農業では土着天敵の活用も進められている。先行研究により、低温や高温条件でも利用できる在来種の選抜を目的に、10種23アイソレートを対象とした、ニセタマナヤガおよびカブラヤガ中齢幼虫を用いたスクリーニングが行なわれ、S. litorale が有望な素材として選抜された。そこで、幼虫期に土壌と接触する機会が多いチョウ目害虫であるカブラヤガ、ハスモンヨトウおよびニセタマナヤガ幼虫に対する本種の殺虫活性とその発現温度を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. Steinernema litoraleはカブラヤガおよびハスモンヨトウ老齢幼虫に対し、7℃から25℃の温度帯で高い殺虫活性を示すが、30℃では活性が大きく低下する(図1)。
2. 本種はカブラヤガ老齢幼虫に対し7℃、10℃および15℃で、ハスモンヨトウ老齢幼虫に対し7℃および10℃で、輸入線虫製剤S. carpocapsaeに優る殺虫活性を示す(図1)。
3. 本種は7℃でも高い殺虫活性を示すが、80%以上の死亡率を得るには、カブラヤガ老齢幼虫の場合30日、ハスモンヨトウ老齢幼虫の場合15日を要し、死亡個体が現れるまでに前者の場合10日以上、後者の場合5日以上を要する(図2)。
4. 本種をカブラヤガおよびニセタマナヤガの中齢幼虫各5頭に対して2500頭接種すると、それぞれ10℃から25℃および7℃から20℃の温度帯で高い殺虫活性を示す(データ省略)。

[成果の活用面・留意点]
1. 本種は、平均地温25℃以上の条件下では十分な殺虫効果を発揮しないことが野外試験でも確認されているが、15℃以下でも高い殺虫活性を有するため、冷涼な地域や温暖地の秋期から春期におけるヤガ類幼虫の防除資材としての利用が期待できる。
2. 本種には上記3種のヤガ類の他にアワヨトウおよびオオタバコガの老齢幼虫に対する高い殺虫活性も確認されており、多くのヤガ類の防除に広く応用できる可能性がある。
3. 本種を生産現場に放飼し害虫防除資材として用いるためには、農薬登録が必要である。
4. 本種の殺虫活性が低下する高温条件における利用が期待される日本産昆虫病原性線虫として、カブラヤガおよびハスモンヨトウの老齢幼虫に対して25℃から35℃で高い殺虫活性を示すS. abbasi (2007年度成果情報)が挙げられる。

[具体的データ]
図1.各温度条件下における昆虫病原性線虫2種のヤガ類2種老齢幼虫に対する殺虫活性
図2.Steinernema litoraleの接種土壌上におけるヤガ類2種老齢幼虫の死亡率の推移(7℃条件下)

(吉田睦浩)

[その他]
研究課題名:土着天敵等を活用した虫害抑制技術の開発
中課題整理番号:214f
予算区分:委託プロ(生物機能)、基盤研究
研究期間:2004〜2010年度
研究担当者:吉田睦浩、水久保隆之
発表論文等:Yoshida M. (2010) Nematol. Res. 40:27-40

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