沖積砂壌土の乾田V溝直播栽培における播種時の適正な土壌水分


[要約]
沖積砂壌土の乾田V溝直播では播種時の土壌水分が低い場合、播種溝がもろく崩れやすくなり自然に籾が覆土されるため、水分吸収が早く進み苗立率は向上する。播種時の適正な土壌水分は32%以下(pF値1.7以上)、山中式標準型土壌硬度計で17mm以上である。

[キーワード]乾田V溝直播、苗立率、土壌水分、山中式土壌硬度計

[担当]富山農総セ・農研・栽培課
[代表連絡先]電話:076-429-5280
[区分]関東東海北陸農業・北陸・水田作畑作
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
乾田V溝直播では湛水直播よりも分げつ数が少ないことから、安定した収量を得るには苗立数を多くする必要がある。しかしこの技術が開発された東海地域に比べ、北陸地域では冬期間の降水量が多く、播種するまで十分に土壌の乾燥が進まないため、苗立ちが不安定になる場合がある。そこで安定した苗立数を確保できるよう、北陸地域の沖積砂壌土における適正な播種時の土壌水分を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 播種時の土壌水分が26〜32%では苗立率は70%以上と高くなるが、32%を超えると変動が大きくなり、低下傾向が認められる(図1)。なお、播種後の降水量は試験年次により異なったが、いずれの年も同様の傾向を示す。
2. 播種時の土壌水分が低いほどV溝が崩れ、籾が覆土されやすくなる。その結果、播種後約1カ月頃のV溝の深さは浅く、幅は狭くなる。逆に播種時の土壌水分が高いほど、V溝は崩れず、籾への覆土はほとんど認められない(図2)。
3. 播種時の土壌水分が低い場合、籾が覆土されることにより、水分吸収が早く進む。その結果、鞘葉や不完全葉、第1葉の抽出も早くなり、出芽期までの日数も短くなる(表1)。
4. 土壌水分が低下すると土壌硬度は高くなり、土壌水分32%における土壌硬度は山中式の標準型では17mm、平型では34mmである(図3)。また、土壌水分32%はpF値では1.7である(データ略)。

[成果の活用面・留意点]
1. 北陸地域の沖積砂壌土で活用できる。なお、供試した圃場の前作は水稲で、土壌粒径組成は粗砂:細砂:シルト:粘土=25.9:40.8:23.7:9.6程度である。
2. 本成果は代かきを前年10〜11月に行い、播種日は4月下旬、種子はチウラム水和剤を粉衣したコシヒカリの乾籾を用いた結果である。
3. 土壌硬度計の値は4月下旬から5月中旬にかけて、土壌水分を測定する場所の近傍で5回測定し、その値を平均したものである。

[具体的データ]
図1 播種時の土壌水分と苗立率の関係(2008〜2010年) 図2 播種時の土壌水分と播種約1カ月後の溝の深さ・幅の関係(2009、2010年)
表1 播種時の土壌水分と籾水分・出芽期の関係(2010年) 図3 土壌水分と土壌硬度の関係
(2008〜2010年)

(齋藤綾乃)

[その他]

研究課題名:乾田V溝直播栽培における安定栽培技術確立試験
予算区分:県単
研究期間:2008〜2010年度
研究担当者:齋藤綾乃、川口祐男、松島知昭、南山 恵、中村一要、長岡 令



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