捕食性昆虫類・クモ類は環境保全型農業の指標生物として活用できる


[要約]
環境保全型農業の水田では、ヒメアメンボ、ノシメトンボ及びアシナガグモ属クモ類などの捕食者の生息密度が高い。トンボ類などの捕食性昆虫類は環境保全型農業の取り組みを評価する指標として活用できる。

[キーワード]環境保全型農業、指標生物、ヒメアメンボ、ノシメトンボ、アシナガグモ属クモ類

[担当]石川農研・資源加工研究部・生物資源グループ
[代表連絡先]電話:076-257-6911
[区分]関東東海北陸農業・北陸・生産環境
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
環境保全型農業をわかりやすく評価するための指標生物としてトンボ類やクモ類など捕食者は有力な候補に挙げられている。そこで、県内の平坦地を中心に、集落の50%以上の圃場で殺虫剤を使用しない環境保全型農業に5年以上取り組んでいる地区と慣行農法地区の捕食性昆虫類等の密度を比較検討し、環境保全型農業における指標生物の有効性を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. ヒメアメンボ成幼数は、殺虫剤を使用しない環境保全型農法で慣行農法に比較して有意に多い(図1)。本種の発生量は地域によって異なるが、すべての地域で確認できる。
2. ノシメトンボの脱皮殻の数は、環境保全型農法で慣行農法に比較して有意に多い(図2)。本種の発生量は地域間の差異が大きく、発生の認められない地域がある。
3. アジアイトトンボの成虫数は、環境保全型農法で慣行農法に比較して有意に多い(図3)。本種の発生量は地域間の差異が大きく、発生の認められない地域がある。
4. アシナガグモ属クモ類の個体数は、環境保全型農法で慣行農法に比較して有意に多い(図4)。発生量は、地域によって異なるものの、すべての地域で確認できる。
5. 以上から、ヒメアメンボ、アシナガグモ属クモ類は、県内各地で確認されており、環境保全型農業を評価する指標生物として広い範囲で適用できる。一方、ノシメトンボ、アジアイトトンボは、発生が確認されない地域があることから、特定の地域において環境保全型農業を評価する指標生物となる。

[成果の活用面・留意点]
1. ヒメアメンボ、ノシメトンボ抜け殻は畦畔からの見取り法で、アジアイトトンボ、アシナガグモ属クモ類はすくい取り法で、いずれも簡易な方法で調査できる。
2. 指標生物の種によっては環境保全型農法と慣行農法の発生が同等な地域もあるので、複数の指標種を組み合わせて評価する。

[具体的データ]
図1 農法が異なる水田におけるヒメアメンボ個体数の違い
図2 農法が異なる水田におけるノシメトンボ個体数の違い 図3 農法が異なる水田におけるアジアイトトンボ個体数の違い
図4 農法が異なる水田におけるアシナガグモ属クモ類個体数の違い

(石川県農業総合研究センター)

[その他]

研究課題名:「農業に有用な生物多様性の指標及び評価手法の開発」
北陸の平坦地の集落における指標生物の選抜

予算区分:農林水産省委託プロジェクト研究
研究期間:2009〜2010年度
研究担当者:藪 哲男、宮下奈緒

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