フェーン発生時など大気乾燥条件では夜間でもダイズの蒸散が発生する
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[要約] |
茎熱収支法の改良によって、夜間のフェーン発生時の蒸散量の測定が可能になる。通常蒸散が起こらないと考えられている夜間においても、大気飽差が0.7〜0.8 kPaより乾燥した条件になるとダイズの蒸散が発生する。 |
[キーワード]蒸散量、フェーン、夜間、ダイズ |

[担当]中央農研・農業気象災害研究チーム
[代表連絡先]電話:025-526-3234
[区分]関東東海北陸農業・北陸・生産環境、共通基盤・農業気象
[分類]研究・参考 |
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[背景・ねらい] |
ダイズの乾燥ストレスは土壌の乾燥条件で評価されることが多く、大気の乾燥条件で評価されることは少ない。しかし水稲ではフェーンで夜間の大気が乾燥すると、蒸散が生じて白穂の被害が増大する。またダイズを含む多くの植物において、夜間の蒸散発生は昼間蒸散によって減少した体内水分の回復を妨げ、翌日の光合成を低下させる可能性がある。そこで圃場栽培されたダイズを対象として、測定が困難な夜間の蒸散量を茎熱収支法により測定する方法を提示し、フェーン発生時の夜間の大気乾燥条件が蒸散活動に及ぼす影響を明らかにする。 |
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[成果の内容・特徴] |
1. |
茎熱収支法では、夜間に蒸散で運ばれる茎内流の熱量が0であると仮定して、センサー側面から外に逃げる熱量の算出に必要なゲージ係数を決定する。しかし蒸散が生じるフェーン発生時の夜間ではこの仮定が適用できず、ゲージ係数が決定できない。一方、蒸散が生じないフェーン発生前後のゲージ係数は安定しており、この一定値をフェーン発生時の夜間にも適用することでゲージ係数を決定できる(図1)。これによりセンサー側面から外に逃げる熱量と茎内流で運ばれる熱量を分離して算出でき、夜間の蒸散量が測定できる(図2)。 |
2. |
フェーンが発生していない夜間の平均蒸散量は2007年で1.0 g plant-1 h-1、2008年で0.3 g plant-1 h-1と小さいが、フェーン発生時の夜間では2007年で4.3 g plant-1 h-1、2008年で4.0 g plant-1 h-1である。フェーン発生時の夜間の積算蒸散量はその前後の昼間の値に対して2007年では10.5 %、2008年では7.0 %に相当する(図3)。 |
3. |
2007年と2008年で大気飽差の増加に伴う蒸散量の反応程度に差があったが、夜間の蒸散が発生し始める大気飽差の限界値は両年に共通して0.7〜0.8 kPaである(図4)。 |
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[成果の活用面・留意点] |
1. |
本研究は測定例が少ない夜間の蒸散量を定量的に評価した結果であり、夜間の大気乾燥条件が作物の生育に及ぼす影響を把握する際の基礎的な知見となる。例えばダイズの高温ストレス試験を行う場合、夜温を30 ℃にすると湿度80 %でも大気飽差は0.85 kPaとなり、蒸散による乾燥ストレスの影響が生じる可能性がある。 |
2. |
茎熱収支センサーはダイズの茎部にヒーターを巻き付け、茎内流で運ばれる熱量から茎内流量を測定するものであり、茎内流量は蒸散量とほぼ一致する。長期間のセンサー設置は熱による植物組織の損傷が起こる可能性があるため注意を要する。 |
3. |
ダイズ品種「エンレイ」を用い、2007年は5月30日、2008年は6月2日に栽植密度14.8 plant m-2で播種した。蒸散量測定時の葉面積は2007年が0.44 m2 plant-1、2008年が0.32 m2 plant-1である。 |
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[具体的データ] |
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[その他] |
研究課題名:高品質安定生産のための農業気象災害警戒システムの開発
中課題整理番号: 215c
予算区分: 基盤
研究期間:2006〜2010年度
研究担当者: 中野聡史、小南靖弘
発表論文等:Nakano S. et al. (2010) J.Agric Meteorol., 66(4):207-216
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