ブタ骨格筋における、ミオシン重鎖アイソフォームの発現様式解析法


[要約]

 ブタ骨格筋には4種類のミオシン重鎖(MyHC)アイソフォームが存在する。ブタMyHC-2xの部分cDNA配列を新たに決定し、決定した配列を基に、RT-PCR法を用いた、4種類のMyHCアイソフォームの量比を分析する方法を開発している。MyHCアイソフォーム発現様式は、ブタの筋肉によって異なる。


[背景・ねらい]

 ミオシンは、骨格筋の筋原線維タンパク質重量の約43%を占める、筋肉内の主要タンパク質である。成熟した家畜の骨格筋には、分子構造が少しずつ異なる4種類のミオシン重鎖(MyHC)アイソフォームが存在する(MyHC-2a,-2b,-2x,-slow)。この各アイソフォームがどの様な割合で存在しているかという、MyHCアイソフォームの発現様式は、食肉の品質、特に食感(テクスチャー)に影響を及ぼすのではないかと考えられている。しかし、MyHCアイソフォームの発現様式の分析法が無いことが研究上のネックになっていた。                                                                               そこで、RT-PCR法によって、ブタのMyHCアイソフォーム発現様式を解析する方法を開発することを目的に研究を行った。さらに、開発した手法を用いて、ブタの筋肉によるMyHCアイソフォーム発現様式に違いがあるかを検討した。

[成果の内容・特徴]

  1. ブタMyHC-2xアイソフォームcDNAのN末端部分配列(399 bp)を新たに決定した。決定した配列を基に各アイソフォームに特異的なPCRプライマーを合成した(図1)。これらのプライマーを用いて、テンプレートに含まれる各MyHCアイソフォームDNAの量比に対応したPCR産物が得られるようなマルチプレックスPCR法を開発した。筋肉中のRNAから合成したcDNAをテンプレートとして上記のPCR法を行うことによって(RT-PCR)、筋肉中の各MyHCアイソフォームの量比を推定することが可能となった。
  2. ブタのMyHCアイソフォーム発現様式は筋肉によって大きく異なっていた。すなわち、胸最長筋はMyHC-2xが60%、MyHC-2bが30%、MyHC-2aが5%、MyHC-slowが5%であった。半棘筋においては、同、40, 0, 25, 35%であった。半腱様筋においては、同、30, 60, 5, 5%であった。舌筋では、MyHC-2aが50%であった。一方、横隔膜では、MyHC-slowが50%であった。半棘筋、舌筋、横隔膜にはMyHC-2bの発現がみられなかった(図2)。

[成果の活用面・留意点]

 本研究により初めて、4種類すべてのMyHCアイソフォームの量比を分析できるようになった。この手法はMyHCアイソフォームと食肉の品質の関連を明らかにする研究だけでなく、家畜組織学、家畜生理学の分野にも有効な手段となると思われる。


[その他]

  1. Tanabe, R. et al., Expression of myosin heavy chain isoforms in porcine muscles determined by multiplex PCR. Journal of Food Science, (in press)
  2. Tanabe, R. et al., Sequencing of the 2a, 2x and slow isoforms of the bovine myosin heavy chain and the different expression among muscles. Mammalian Genome, 9, 1056-1058 (1998).
  3. Tanabe, R. et al., RT-PCR analysis of myosin heavy chain isoform expression in porcine muscles. Prceedings of 44th International Congress of Meat Science and Technology (Spain), vol 2, p. 694-695, 1998.
  4. Tanabe, R. Sus scrofa mRNA for myosin heavy chain isoform fast type, partial cds. In the DDBJ, EMBL and GenBank nucleotide database with the accession number AB010787.