クエン酸からエネルギーを獲得できる乳酸菌


【要約】

 チーズスターターの中から糖存在下でクエン酸からエネルギーを獲得できる乳酸菌を分離した。この菌はLactococcus lactis subsp.lactis biovar diacetylac-isであり、 クエン酸代謝におけるエネルギー生成反応には脱炭酸反応が関与していると思われた。

【背景・ねらい】

 一部の乳酸菌はクエン酸(Cit)から二酸化炭素やジアセチル、酢酸など各種乳製品のフレーバーとして重要な物質を生成する。市販のチーズスターターから分離したグラム陰性菌選択培地であるクリスタルバイオレット(CVT)寒天上にコロニーを形成する乳酸菌(CVT菌)は、スターターとして用いると軟質のチーズを生成し、またCitを分解し、菌体重量が数倍にも増加するなどこれまでに知られている乳酸菌とはかなり異なった性質を有している。本研究ではこの乳酸菌の分類学的位置とそのクエン酸代謝機構について解析することを目的とした。

【成果の内容・特徴】

  1. 当研究室で保有しているCVT菌はグルコースからL-型の乳酸を生成し、Cit分解能を有し、さらにtype strainであるLactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactis ATCC 13675とDNA-DNAハイブリダイゼーションで80−100%の相同値を示したことから、13675と同種菌株である。

  2. Cit分解能の有無にかかわらず、試験に供したLactococcus属6株はCit添加量に伴い、菌体重量(図1)、糖消費量が増加した。しかし分子増殖収率[YG(g mole-1)=菌体重量/糖消費量]は、CVT菌であるCVT3、8W株でのみCit添加時に高くなった。これはCVT菌は他のLactococcus属の菌株と異なり、糖からだけでなく、Citからもエネルギーを得ることが出来ることを意味していた(表1)

      

  3. 8W株のYGはリンゴ酸(Mal)添加でも高くなったことから、CVT菌はMalの脱炭酸反応(マロラクティック発酵)でエネルギーを獲得していることが明らかとなった(表2)


  4. 8W株のCit代謝では脱炭酸反応はオキザロ酢酸(Oxa)からピルビン酸(Pyr)、Pyrからアセトインまたはジアセチルが生成する経路の二ケ所で行われる(図2)。8W株をOxa、Pyrを添加した培地で培養すると、Pyrの脱炭酸反応でYGは無添加の場合と変わらなかった(表2)。従ってCVT菌はもう一つの脱炭酸反応系であるOxaからPyrへの反応によってエネルギーを獲得していると考えられたが、Oxaを培地に添加した場合は菌の生育が抑制されるため、実証できなかった。また同じbiovar diacetylactisに属するN-7ではいずれの有機酸脱炭酸反応においてもYGは高くならなかったことから、Cit、Malからのエネルギー獲得は、CVT耐性などと共にこの乳酸菌の特異性の一つである。


【成果の活用面・留意点】

  CVT菌を分離する際に使用するCVTアガーには、CVTが1ppm含有する市販品を用いる。

【その他】

  1. Lactococcus lactis sp.CVT のクエン酸代謝について 第90回日本畜産学会大会(1995)
  2. Lac.lactis 8W株のクエン酸代謝の特徴 日本農芸化学会1995年度大会(1995)