生体適合性を有する逆ミセル系の形成


【要約】

 界面活性剤として大豆レシチンを使用し、溶媒にオレイン酸エチル等を使用することにより、生体適合性を有した逆ミセル系を形成することができる。形成された逆ミセルは慣性半径が約3nmの球状である。また、リン脂質とオレイン酸の協同効果により逆ミセルが形成できる。

【背景・ねらい】

 逆ミセルは、有機溶媒中に界面活性物質を添加した際に自発的に形成される複合分子集合体である。その内側に数nmの微水相を保持し、酵素などの親水性物質を可溶化することができる。この特性を利用して、有機媒体中での酵素反応や、ペプチドやタンパク質の抽出分離などへの利用が検討されている。しかしながら、既往の研究ではイオン性の界面活性物質と飽和炭化水素を溶媒とした逆ミセル系が使われており、食品や医薬品の分野への利用を考慮し、本研究ではより生体適合性の高い成分を用いて逆ミセル系を形成する。また、小角X線散乱法により形成された逆ミセルの大きさと形状の評価を行う。

【成果の内容・特徴】

  1. 様々な系における逆ミセル形成の可否を水の可溶化挙動から調べた(表1)。粗大豆レシチン/オレイン酸エチル系及び、粗大豆レシチン/カプロン酸エチル系で生体適合性を有する逆ミセル系が形成できることが示された。

  2. 逆ミセルによる水の可溶化の一例として、粗大豆レシチン/オレイン酸エチル系の挙動を示した(図1)。有機相の粗大豆レシチン濃度が8g/Lを超えた濃度で有機相の水濃度が増加しており、この濃度以上で、逆ミセルが形成され、有機相に水が可溶化されることがわかる。

  3. シンクロトロン小角X線散乱分析から粗大豆レシチン/オレイン酸エチル系の逆ミセルは、慣性半径約3nmの球形をしていることが分かった。

  4. 表1に示したように界面活性剤として粗大豆レシチンの代表成分であるフォスファチジルコリンを使用した場合、オレイン酸エチル中で逆ミセルの形成は確認できなかった。そこで、粗大豆レシチンの他の含有成分を逆ミセル形成助剤として添加し、有機相の水濃度を測定した(図2)。オレイン酸を添加した場合、水の可溶化量が著しく増加し、フォスファチジルコリンとオレイン酸が集合化し逆ミセルが形成されることが示された。

【成果の活用面・留意点】

 他の生体適合成分を使用して可溶化能力の高い逆ミセル系を形成するとともに、逆ミセル系を食品関連分野において有効に利用するための工学基礎の検討を続けていくことが必要である。

【その他】