コラム
食品害虫の発生した小麦粉でパンを焼いてみたら・・・
多くの人が捨ててしまうと思われる虫の発生した小麦粉。そういう小麦粉で実際にパンを焼いたらどんなパンができるのでしょうか?虫の影響はどれくらいあるのでしょう?
今回のコラムでは、この点について調べた論文を紹介しましょう。

小麦粉に発生させる食品害虫として、4種類の甲虫類、ノコギリヒラタムシ、チャイロコメノゴミムシダマシ、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキを選びました。それぞれの虫を小麦粉に投入して、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後に虫を取り除いた小麦粉をパンの材料として使いました。コクヌストモドキやヒラタコクヌストモドキの成虫100頭を小麦粉1.8kgに投入すると(温度27.8℃)、3ヶ月後には3,000頭以上になります(表参照)。


虫の発生なしの小麦粉と、虫を取り除いた小麦粉を用いて同じ方法でパンを焼き、6名の評価者がパンの物理的特性や臭いについて比較しました。
ノコギリヒラタムシとチャイロコメノゴミムシダマシが発生した小麦粉で焼いたパンは、物理的特性(体積・パンの身や耳の色、対称性、焼き具合の均一性、歯ごたえ等)には、ほとんど影響はありませんでした。 しかし、虫の投入から3ヶ月を経過した小麦粉を使うと化学的なフェノール臭(後述するキノン臭と同様のものと思われる)がありました。
コクヌストモドキやヒラタコクヌストモドキが発生した小麦粉で焼いたパンは、多くの変化が見られました。パンの身の黒化、スライスサイズの減少や、虫の投入から3ヶ月経過したものだと不快な味や臭いが感じられました。 これらのパンの質の低下は、コクヌストモドキ類が分泌するキノン類の影響であると論文では推測しています。

小麦全粒粉でコクヌストモドキ類を高密度あるいは長期間飼育すると、刺激性のある薬品のような臭いが発生します。この臭いの正体は、成虫が分泌するキノン類であり、ゴミムシダマシ類の捕食者に対する防衛手段と考えられています。キノン類は、ほ乳類に対しても毒性を持つことがわかっていますが、穀類のタンパク質と速やかに反応し、化学的に安定な結合物質を形成して、毒性は著しく低減すると言われています。
3,000頭も小麦粉に虫が発生すれば、キノン臭も強く、とてもパンを焼く気にはならないでしょう。今回の論文をみると、虫の数が増えると、キノン類が増え臭いが発生し、パンの品質が低下することが分かります。虫の数は、1ヶ月程では大きく増加することはありません。これらのことから考えると、小麦粉等を保管する場合、1ヶ月に1回は虫の発生を点検することが、大きな被害を避けるコツではないでしょうか。

参考文献
- Smith, L. W. Jr., J. J. Pratt, Jr., I. Nii and A. P. Umina (1971) Baking and taste properties of bread made from hard wheat flour infested with species of Tribolium, Trogoderma and Oryzaephilus. Journal of Stored Products Research 6: 307-316.
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更新日:2019年02月19日