コラム
続・ダニを誤食して起こるアレルギー症状
昨年10月のコラムで、お好み焼き粉に繁殖したダニを誤食して起こるアレルギー症状の事例(経口ダニアレルギー)を紹介しました。この話題が今年の4月に朝日新聞、5月に産経新聞に取り上げられ、私もコメントしています。今回のコラムでは、その症例数と粉体食品でのダニの繁殖について、最近読んだ文献から補足説明をしたいと思います。

経口ダニアレルギーの世界での症例数はどのくらいか?
私は、世界で約60例、そのうち日本で19例と朝日新聞でコメントしました。このデータは2010年の論文のデータを基にしたものです。2013年の1月に発表された論文(Sanchez-Borges et al, 2013)での集計をみると、症例は2倍以上の135例が報告されていました。その内訳を国別に示すと、スペイン(59)、日本(32)、ベネズエラ(31)、アメリカ(7)、ブラジル(2)、シンガポール(2)、台湾(1)、パナマ(1)となっています(表1)。日本の事例も10例ほど増えています。産経新聞では、日本で38例と紹介していますので、実際にはもっと多数の症例があると思われます。

論文:Sanchez-Borges et al, 2013 より作成
ダニが繁殖しやすい粉体食品は何か?
日本では圧倒的にお好み焼き粉、海外ではパンケーキミックスが多く「パンケーキ症候群」と呼ばれることもあります。この2つの粉体食品には特に注意が必要と思います。他の食品ではどうでしょうか。アレルギーの原因となるコナヒョウヒダニを、様々な粉体食品に投入し(95匹+小麦粉150mg/10g)、26.6℃・湿度88%でその繁殖を調べた論文(Yi et al, 2009)があります。小麦粉、小麦粉含有ふくらし粉、パン製造用小麦粉、小麦全粒粉、天ぷら粉では多数の繁殖が見られました。一方、コメ粉、トウモロコシ粉、タピオカ粉、サツマイモ粉では目立った繁殖は見られませんでした(表2)。小麦粉が含まれている粉体食品ではダニが繁殖しやすいようです。それ以外のものでも繁殖しないとは言い切れないでしょう。

論文:Yi et al, 2009より作成
お好み焼き粉3品と薄力粉でのコナヒョウヒダニの繁殖数(20匹/25mg)を比較した論文(稲葉ら,2010)では、6週間後にはお好み焼き粉は薄力粉に比べて2~3倍の増殖数になると報告しています(温度・湿度不明)(表3)。

論文:稲葉ら(2010)より作成
各粉体25mgに20匹を投入し、繰返し3回
ダニは肉眼で見えないのか?
アレルギー症状の事例では、お好み焼き粉1gの中に2万匹以上のダニが発見された例もありました。ダニは目に見えない程小さいのか!と思われるかも知れませんが、コナヒョウヒダニやケナガコナダニの体長は約0.4mmで、肉眼で見えない程ではありません。しかし、体色が半透明でクリームあるいは白色のダニは、粉体の色と似ているため発見することが難しいかもしれません。ダニアレルギーを持つ方は、1ヶ月以上常温で保管した粉体食品には、ダニ繁殖の可能性があることを注意する必要があるでしょう。

参考文献
- 稲葉ら(2010)お好み焼き粉に繁殖したダニによる即時型アレルギーの2例.日皮雑誌 120: 1893-1900.
- Sanchez-Borges et al (2013) Anaphylaxis from ingestion of mites: Pancake anaphylaxis. J. Allergy Clin. Immunol. 131: 31-35.
- Yi et al (2009) Dust mite infestation of flour samples. Allergy 64: 1788-1789.
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更新日:2019年02月19日