【豆知識】

コラム

コクゾウムシの方言について

2015.03.04 宮ノ下明大

 

最近『昆虫名方言事典』を買いました。早速、コクゾウムシを調べると、日本各地から20種類以上の方言が記録されていました(表)。方言には、人間の目線でコクゾウムシの特徴が表現されています。その特徴に注目しながら、私なりに解説したいと思います。

日本各地にみられるコクゾウムシの方言

角(つの):かく、つのたかむし、つのむし

成虫の形態で目立つのは、ゾウの鼻のように見える口です(先端の顎でお米をかじります)。これは角ではありません。しかし、昆虫学の知識がなければ、カブトムシと同じような角に見えると思います。コクゾウムシが発生した状態を、「米びつの中に小さなカブトムシがいる」と表現した例を知っています。

コクゾウムシ成虫

色:くろむし(黒虫)

成虫の体色を、そのまま表現したと思われます。コクゾウムシは茶褐色や黒褐色をしていますが、羽化したばかりの成虫は、赤褐色でまるで別の種類に見えます。それが4日程で黒くなるのです。

大きさと色:ごまむし(胡麻虫)

小さくて黒いゴマのような虫ということでしょう。その体長は3~5mmですから、ゴマと同じか少し大きいです。米粒内で発育するコクゾウムシは、米の大きさ以上には大きくなれない物理的な制約があります。この制約がなくなると、少し大きな成虫になります。たとえば、ドングリで発育したコクゾウムシは、コメに比べると大きくなります。

コクゾウムシ成虫は3mm程度ゴマに見える?

食害穀物:こめつき、こめむし、よなむし(米虫)、せんごくむし(千石虫)、むぎむし

コメやムギの害虫ですから、これらは害虫の呼び名として自然だと思います。「せんごくむし」は、千石虫と書きます。米を千石を積める大型の和船を千石船といい、江戸時代この船にはコクゾウムシが多くいて、被害を受けたことに由来するそうです。

食痕:ほり(堀)

「ほり」は、魚が産卵するために川底につくる小さな窪みを意味します。成虫のコメ粒への食痕は、確かに窪みに見えます。「米に堀をつくる虫」の意味なのでしょう。

幼虫のかたち:おながじ(尾長蛆)

これまでの方言は、成虫の特徴に注目したものでした。幼虫に対して方言があるとは私には驚きでした。幼虫はコメの穀粒内で発育し、通常は人目に触れることはないからです。「おながじ」は、尾長蛆と書きます。尾が長いウジのことで、ハエやアブの幼虫の方言でもあります。この方言が転用されたのでしょう。コクゾウムシの幼虫は、脚が退化しているので、ウジに見えなくはありません。現代でも昆虫の白い幼虫は、種類に関係なくウジと呼ばれますので、蛆という表現も不思議ではないのです。

コクゾウムシ幼虫

不明:うぞ、げじげじ、さんきち(三吉)、ずみ、つみ、よのじ

残念ながらこれら方言の由来はわかりません。

 

これだけ多様な方言をもつ貯穀害虫は、他には見あたりません。コクゾウムシは、とても身近で重要な害虫だった証拠でもあります。

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参考文献

  • 阿部光典(2013)『昆虫名方言事典』、サイエンティスト社、197頁
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関連情報

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更新日:2019年02月19日